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「だ、誰ですかっ!魔猫の尻尾を掴むなんて、失礼ですよっ」
下がった形の、フリルのように少しだけ波打った不思議な耳をピクピクさせて、少年は言った。声も幼い…まだ8歳くらいだろうか。
「隠れんぼの途中です、見つかっちゃいますよ…!」
「隠れんぼって…もしかしてラグナ君と?」
私は目線を合わせる様にしゃがんで話し掛ける。すると少年はハッとして棚の隙間から出てきた。耳は感情と共に反応するらしい。少年は大きなリボンをつけて、ベストを着て、袖はだぼだぼだけど、なんだか執事か使用人みたいな格好をしていた。
「これは…ぼくのご主人様のお知り合いの方でしたか、失礼しました」
ぺこりと頭を下げる。
その仕草も、絶えず揺れている尻尾も、子猫のような声も何もかもが…
「か、可愛い…!」
この世にこんなに可愛い生き物が存在していたなんて…!魔猫と言っていたから、この子も勿論悪魔なのだろう。しかし悪魔なんて…むしろ天使のような可愛いさに思わずじっと見つめていた。
「ぼくはチィと申します」
「あ、私はセイラ。この間この屋敷に来て、メイドとして働いてるの」
「セイラさんですね、よろしくお願いします」
にこっと笑みを浮かべて軽く頭を下げる様子は抱き締めたくなるほど可愛い。だけど驚かせてしまうだろうから、その衝動は胸に仕舞い込んだ。
「ねぇチィは…」
この屋敷で働いてるの?
そう聞こうと思った瞬間、バサバサと本が雪崩れ落ちるような大きな音と誰かの声が、静かな図書室に木霊した。
「あいたたた…!」
「はっ!ご主人様、また転んでしまったようです」
チィはまるでそれがいつもの事であるかのように、音のした方へ走っていく。私もその小さな背中をを追いかけてみた。
本棚を曲がると、落ちた本が山になっていた。そしてその本の一番下から手が出ている。チィは急いで本を退かし始めた。
「ラ、ラグナ君…大丈夫?!」
私も膝を付いて、本を退かしていく。少し崩すと、ラグナ君が上半身を起こした。頭を打ったのか、痛そうに擦っている。
「だ、大丈夫?」
「うん、いつものことだから」
「ご主人様、物の間を歩く時は気を付けて下さいとぼくは何回も言ってますよ」
「はは、ごめんチィ。助かったよ…あ、チィみっけ」
「か、隠れんぼは一時中断ですっ!今のは無しですよ!」
ラグナ君はよく転んだりするのだろうか…。取り敢えず、この本を棚に戻さないと。
本棚を見上げると、一番上の棚から下まで、ボロボロと本が抜け落ちている。
「梯子がいる…よね」
取りに行く為にと立ち上がろうとすると、誰かに上から肩を押され、膝を着いたままその人物を見上げた。
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