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「ここが、屋敷の図書室だ」
「ありがとう、レオン」
レオンに案内してもらって、私は今屋敷の図書室の前に立っていた。この屋敷は本当に扉という扉が大きい。図書室は屋敷の端の方にあって、どちらかと言うとキールより護たちがよく使っているみたい。図書室の近くに幾つかあった扉は彼らの部屋らしい。
ロビーでレオンを見つけて場所を聞いたら、ここまで連れてきてくれた。
「帰りに迷子にならないようにな」
「大丈夫よ」
レオンの厚意に感謝しつつ笑顔で言い、扉を押した。古い木が僅かに音を立てる。中に入ると、目の前には天井まで届きそうな本棚がズラリと並んでいた。5メートルはありそうだが、あんな上の方の本はどうやって降ろすのだろう。足を進めると、図書室の真ん中に長テーブルが四つ並んでいて、それぞれにイスが四つずつ置いてあった。そこに見覚えのある姿。後ろの窓に寄り掛かるように、イスの前足を浮かせて座っている。
顔に本を被せて…眠っているのだろうか、でもその青い髪を見間違える訳もなく…。
「…ラグナ君?」
「……ん…?」
本を退けてこちらを見たのは、やはりラグナ君だった。彼は寸の間私を見て、思い出したように先程より僅かに眼を開いた。
「ああ、セイラ…本探しに来たの?」
「うん、魔界について色々調べてみようと思って。ラグナ君もしかして寝てた?」
「ううん、隠れんぼの途中だよ。僕が鬼なんだ」
隠れんぼ…?
誰となのか聞こうとしたけど、ラグナ君は再び本を顔に被せてしまったから、私は本を探しに行くことにした。
それにしても、この図書室は広すぎる。これだけの本、全て読もうものなら何年掛かるのだろうか。タイトルも私のいた時代では見たこともない。
魔物についての本や、魔法や召喚、中には読めない文字で書かれた本等、いかにも魔界を思わせるものばかり。中を開いて見ても、私には書いてあることの意味は分からなかった。
ただ、この挿絵のような魔物が外にいるのだと思うと少し怖くなる。
キール達を見ていると、悪魔は人型なのだと思ってしまいがちだけれど、実際は魔物のような姿をしたものが大半で、人型をとるのは中高位の悪魔だけらしい。
同じヴァンパイアでも、まともに人型をとれないコウモリの様なヴァンパイアもいたり、様々なようだ。描かれた悪魔達を見ていると、この屋敷の悪魔達が美しく見えて仕方なかった。
「悪魔も色々なのね…」
本を棚に戻し、めぼしいタイトルを探して本棚の列にそって歩いていると、棚の隙間から黒っぽい何かがはみ出しているのが見えた。
近付いてみると、黒い毛が生えている。まるで何かの尻尾のような…。気になってその物体を掴んでみた。
「きゃっ!」
「え?!」
慌てて手を離すと、棚が小く揺れ、隙間から小さな男の子が顔を出した。薄水色の髪に大きな翡翠の瞳、でも人間じゃない。
だってその子には、猫のような耳が付いていたから。
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