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「アシュレイ、挨拶はちゃんとするものだ。これから同じ場所で働く者同士だろ」
クシナさんからアシュレイに視線を戻すと、彼の赤い瞳が一瞬だけ私を捕らえる。
「…アシュレイだ」
「よろしくお願いします」
「ごめんねセイラちゃん、ムスッとしてるけどレイちゃん人見知りなだけだから!」
クラウスはアシュレイの肩を抱いて私に笑いかける。私は笑顔を返しつつも、アシュレイの眉間に更に皺が刻まれたのを見逃さなかった。
「離せ。その呼び方も止めろと言った筈だ」
怒気の含まれた声で、今にもなにかを爆発させそうな空気が伝わってくる。しかしそれにもクラウスは全く動じていないようだった。
「いいじゃん似合ってるのに」
ニコニコと話すクラウスと不機嫌極まりないアシュレイを余所に、クシナさんが口を開いた。
「血の護にはあと3人、ヴァンパイアがいるんだが、セイラと同じ年頃の女の子もいる。きっと良くしてくれる筈だ」
女の子がいるのかぁ…。
ここに来てからリルム以外の女の子と会ったことがなかったから、少し安心した。
「生憎今日は出張中でいないんだが、戻ったら伝えておく」
「ありがとう…」
広間の雰囲気が私が入った時とは随分変わり、和やかになっている。ようやく肩の力が抜けて、リラックス出来た。
見知らぬ人…しかも悪魔と会話するなんて、当然今までになかったこと。
やはり人間とは持っているオーラ、雰囲気が違う。
私の存在が理解されなかったらどうしようかと思っていたけれど、どうやら今のところその心配はなさそうだ。
「3人は今日は戻らないんだな?」
レオンが確認するように訪ねると、ヴィクターさんが頷いた。
「あいつらが戻るのは最低三日後になる」
それを聞いたレオンの視線が私に落とされる。
「セイラ、今のところ紹介出来るのは彼らだけらしい。案内はここまでだ」
「うん。ありがとうレオン」
「部屋まで送るよ」
「あ、よろしくお願いします」
本当はそこまでしてもらうのは申し訳なかったんだけど、また迷ってしまわない自信がない。ひとりで帰れると言って迷ったら逆に迷惑が掛かってしまうかもしれない。ここはお言葉に甘えて送ってもらうことにした。
「じゃあ私…失礼します」
「いつでも話しにおいで、セイラちゃん」
護さん達に軽く頭を下げ、手を振ってくれたクラウスに同じように軽く手を振り、出口へ向かうレオンを追いかけた。
私は広間から自分の部屋への道をなんとか覚えながら、無事レオンに部屋まで連れてきてもらった。
「今日は色々ありがとう」
「気にするな。一日中歩き回って疲れただろ、ゆっくり休むといい」
部屋の扉を開けながら言うレオンは、やはり紳士だと思う。人間の彼の側にいると、心なしか安心する。緊張が解けて安心したせいか、とにかく眠かった。
「何かあればいつでも言ってくれ」
「うん、ありがとう」
私はレオンと別れて部屋に入り、そのままベッドに倒れ込む。
襲い来る強い睡魔に引きずられ、眠りに落ちた。
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