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大広間に入ると、すぐさま視線が私に飛んできた。ただ新顔だと見られているだけじゃない…刺々しい、警戒を露にするような痛いものだった。
広間はその名の通り広く、端から端まで歩くのに1分は必要そうだ。
広間の片隅に大きな暖炉があり、その前には豪華な絨毯が敷かれている。テーブルやソファが置かれていて、ちょっとした談話スペースになっていた。

そしてそこに、4人の男の姿が見える。2人はソファに座っていて、あとの2人は柱に寄り掛かるように立っている。
一見和やかに談笑しているようだが、その空気は私に向けた明らかな敵意が込められていた。

「セイラ、大丈夫か?」

足が進まなくなった私の背中に手を当て、レオンが心配そうな顔で覗き込んだ。

「う、うん」

子供みたいだけど、何度か背中を撫でられて少し安心した。私はレオンに笑顔を向けて、4人に視線を戻す。
すると、その中の1人が近付いてきた。

「君は?」

「あ…私、三日前からここで働かせて頂いてます、セイラと申します」

本当は"働かされてる"んだけど。今は置いておこう。
私の前に来た男は、銀髪に綺麗なアクアブルーの瞳をしていた。彼もヴァンパイア…らしいけど、そんな風に見えないくらい優しくて物腰の柔らかい印象だった。

「俺はクシナ。あそこにいる3人と…あともう3人いるんだが、"Guard of Blood"という組織のリーダーをしている」

Guard of Blood…"血の護"
それがどんな組織なのか分からないけれど、この人はそれを束ねるリーダーなのだ。

「あの、よろしくお願いします!」

勢いよく頭を下げると、少し慌てたような、含み笑いの声が返ってきた。

「そんなにかしこまる必要はないよ。すまない、怖がらせてしまったんだな」

私が顔を上げると、クシナさんは合図して奥にいた3人を呼んだ。

「クシナさん、この子が噂の子?」

噂?なんの噂だろう。
緋色の髪の青年は私を物珍しそうなまなざしで見つめた。

「ああ、どうやら彼女がそうみたいだよ」

クシナさんの返事を聞くと、緋色の青年は益々楽しそうな表情に変化した。

「俺はクラウス。さっきは睨んでごめんね、よろしく」

笑顔で差し出された手を取り、握手をする。

「セイラです、よろしくお願いします」

彼は元々陽気な性格なのだろうか、先ほどのピリピリした空気とは打って変わって人懐こい雰囲気をしている。

「あの、噂って…」

「殿下が人間の女を屋敷に入れたと聞いてな。お前のことは屋敷の者殆どが知っている」

そ、そんなことが…。

「ヴィクター、自己紹介の時くらい煙草はよせ」

クシナさんが困ったような笑みを浮かべている。

「別に構わんだろう。新参者のこいつに気を遣う必要はないと思うが」

煙草の煙を吐き、ヴィクターと呼ばれた人は私を見下ろした。

「今呼ばれたが、ヴィクターだ。煙くらい平気だろう」

「は、はい…」

「いつか肺を犯されて死ね」

銀髪赤目の赤いスカーフを巻いた青年が、ヴィクターさんを睨みながら不機嫌に言った。
私は挨拶をしようと向き直るものの、中々視線が交わらない。
いや、これはもしかして避けられてる…?
明らかに私から顔と視線を背けている様子を見て、隣りにいたクシナさんが彼の肩を叩いた。



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