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二つ折りにされた紙を広げ、目を通した。こういうものは本当は本人しか見てはいけないものだけど、私がうっかりしてしまったから仕方がない。彼は読み終えると、その紙を懐に仕舞い込んだ。
「あの、それ…」
受け取り人に渡すべきなんじゃ…と思い男の人を見る。彼は何事もないかのような微笑みを浮かべた。
「これは俺宛てだ」
……この人宛て?
わ、私は本人の前で名前忘れたとか言ってしまったの…!
「ご、ごめんなさい私…!」
「いや、いい。確かに覚えにくい名前だからな。」
彼は笑って言うと、ス…と右手を私に差し出した。
「俺はレオンハルト・ド・マティルダ。覚え方はレオンでいい」
「あ…私はセイラ。三日前からここで働いてるの」
私もレオンに右手を差し出して握手をする。何はともあれ、本人に出会えて良かった。
このまま渡せないで日が暮れたらキールにうるさく言われるに決まってる。
「あの、その手紙…」
「ああ、キール様からの伝令だ。"その手紙を持ってきた女を案内しろ"とな」
手紙を持ってきた女…って、私?
「案内って、屋敷の?」
「それもあるが、他にも会っておいた方がいい悪魔もいる。案内するよ」
レオンは微笑み、扉を開けた。礼を言って私が中に入ると、自分も入って扉を閉める。これが紳士というものなのだろう。
「全てを回りきるのは一日じゃ無理だ…取り敢えず、セイラがよく行き来すると思われる場所を案内するよ」
お手伝いという名目で置いてもらっている私がよく行き来する場所といえば、キッチンや浴場、その他日常生活に必要な部屋。
レオンはそのひとつひとつを丁寧に案内してくれた。
「ね、レオンはここで何をしてるの?」
「俺はキール様の護衛騎士を務めている」
腰に剣を提げているのは出会った瞬間から気付いていたけど、やっぱりそうだったんだ。
この時代には本当に騎士や…剣や銃を持った人がいたのだと改めて実感した。私の住んでる時代は、争い事もない平和な世界だもの。
だけどそれも500年逆上れば悪魔がいたなんて…。
「そんなに剣が珍しいか?」
「え…!あ、違うの。ちょっと考え事をしてただけ」
「そうか、疲れたなら我慢せずに言えよ」
「うん、ありがとう」
レオンは今までより一際大きな扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けて振り向いた。
「セイラ、ここは大広間だ。いつでも大抵誰かはここにいる。」
レオンは扉を開けないまま私の目を見た。
「今の時間は確か4人の悪魔がいたはずだ…全員ヴァンパイアだが、大丈夫か?」
ヴァンパイア。
キールと同じ悪魔が4人も中にいるなんて…。悪魔に出会うのは3度目。なんとなくだけど、扉の向こうの気配からリルム程気楽に話せる悪魔はいないような気がした。
「大丈夫よ」
本当はできる限り会いたくないけれど、同じ屋敷にいる者としてやはり挨拶くらいしなければ。
私が頷くと、レオンは大広間の扉を開けた。
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