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500年前、世界は魔界と人間界に分かれていて、天には天上界があったのだという。

500年後の現代、魔界は封印され、人間界以外の存在を知らずに育ってきた私は、聖職者育成学校の屋敷見学で目にした石像に触れた。
その石像は、魔界封印時代の魔王…キールそのものであり、私はタイムスリップをしてしまったのだ。

魔界時代の屋敷に飛ばされ、キールに出会い殺されかけたところを、屋敷で働くという条件を呑むことで何とか逃れることが出来た。


そうしてキールの屋敷で働き初めてから、はや三日。


「…あれ、どこだっけ…」

私は今、キールに預けられた一枚の紙を持って屋敷のどこかに立ち止まっている。
そう、どこかに。

「ああもう…また迷った…」

この三日で分かったことのひとつ。
キールの屋敷は馬鹿みたいに広い。こんなに広いのに城じゃないなんて、逆に不思議なくらいに。装飾品は全て高価なものだと見て取れる。明かりは勿論シャンデリア。
豪華なのだが、見慣れないものばかりなせいか各部屋の場所を覚えられない。先ほど通ったような廊下をまた歩いている…なんて、この短期間に幾度も体験した現象だった。

「ていうか…この紙渡す相手の人、私知らないんだけど…」

屋敷に来て出会ったのはキールの他にリルムという見習い魔女の女の子。リルムも魔法学校に通いながら屋敷で働いているらしい。
魔女や魔法学校…非現実的な響きだけど、案外冷静に受け止められた。心の中では結構前向きに整理出来ているようだ。

とにかく、私はキールとリルムしか知らない。こんなに広い屋敷なんだし、キールは魔王なんだからもっと召使いのような人がいるのは分かっているけど、まだ会ったこともない人に届け物なんて無茶よ。
現に私は迷子になっている。

「どうしよう…」

えっと…キールはなんて言ってたっけ。この手紙を届ける人の名前は確か…

「こんなところに、一体誰だ」

背後から声を掛けられ、全く気配を感じなかった為思い切り肩が跳ねた。恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは金髪の男の人だった。
勿論会うのは初めて。
その人はどこか高貴な雰囲気で、召使いではないような格好をしている。どちらかというと騎士…みたいな。

「あ、あの…私人を探してて…これを渡さないといけないの」

見知らぬ存在であろう私を少しの間見つめ、口を開いた。

「誰を探してるんだ?」

「えっと…それが名前を思い出せなくて…」

確か長い名前だったのよ。聞き慣れないし一度早口に言われただけだから思い出せなくなってしまった。
苦笑いをしていると、男の人は私に近付き、持っていた紙を手に取った。


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