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「サイちょん、これは一気に片付ける方が早いと思う」
「ああ、俺も同じことを思ってた」
背中合わせのまま、肩越しに話し合う。ちまちまと倒していても、仲間を呼ばれてしまう。
「なぁサイちょん、そっち半分一掃出来る?」
多数の敵を殺す技を持っているかどうか、絢鷹は尋ねる。サイは頷き、右眼を覆う眼帯に手をかけた。
「問題ない。同時にやるか」
「よし、ほんなら行くで!」
絢鷹の合図を皮切りに、二人は自分の技を放つ。サイは眼帯を外して右眼の覇王の力を解放した。金色の眼を開き、月夜叉を握り直して一気に振るう。蒼い炎が黄泉の端から端までを覆い隠し、焼き尽くしていく。
絢鷹も同じく、全体攻撃用の術を使った。火遁の印を結び、炎の渦による柱を作り出す。現れた炎柱は、竜巻のように回転しながら黄泉を巻き込んでいった。
「、っ…?!」
二人の炎で黄泉が焼けていく最中、絢鷹は頭の痛みに顔をしかめる。右手の印はそのままに、左手で頭を押さえた。
「絢…?!どうした、大丈夫か?」
「ああ…ちょっと頭痛がしただけや……っ?!」
絢鷹は肩越しにサイを見て笑みを作るが、その瞬間、絢鷹の火遁の術の威力が跳ね上がる。爆音ともとれる炎の音と共に、サイが焼いていたものを含めた全ての黄泉を消し去った。
この術は、これ程威力のある術ではない。絢鷹自身も驚きに目を見開き、消えていく炎を凝視した。
「…絢?頭痛は…」
サイが心配気に絢鷹を覗き込む。その瞬間、絢鷹はビクリと肩を揺らして頭を抱えた。
「絢?!」
「サイちょん…、ちょっと、右眼隠してくれへんかな…?」
絢鷹はサイから目を背けたまま、痛みに耐えるような声色で言う。なにかまずかったのかと、サイは分からないながらも急いで眼帯を戻した。
それを確認すると、絢鷹はようやくサイを真っ直ぐ見つめる。
だがその表情は困惑に満ちていた。頭痛は引いたのか、頭を押さえてはいない。眉を側め、じっと眼帯を見つめていた。
「どう…したんだ?」
「…今、ウチとサイちょんの力が共鳴した」
「…共鳴?」
互いの力が干渉し合い、技や能力の威力が一時的に上がることを共鳴と言うのだと、絢鷹は話す。
「ウチの術がサイちょんに反応して、共鳴した…さっき急に威力が上がったんはそのせいや」
共鳴相手がいることは、決して悪いことではない。高天原でも稀に共鳴出来る者同士がいる。珍しい関係ではあるが、協力して戦える相性のとても良い者同士ということだ。
絢鷹との相性が良かったのか…とぼんやり思っているサイを、絢鷹は真剣な眼差しで見つめる。
「共鳴には、ひとつだけ条件があんねん」
真剣な口調で言われ、サイは黙って言葉を待つ。
「…共鳴は、血の繋がった身内にしか起こらん」
静かに告げられた言葉は、想像もしなかった内容。その意味を頭が理解した瞬間、サイは目を見開いた。
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