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「ほな、行こか」

絢鷹はそう言い、門の前で星を描くように術式を切る。

「開門」

指を二本顔の前で立て、念を送ると、巨大な朱雀門はゆっくりとひとりでに動き出した。大の大人が何十人かでやっと動かせそうな程の大きさの門が、鈍い音と砂埃を上げながら左右に開かれる。
その先には、荒れ果てた陰の世界が覗いていた。サイがそこに足を踏み入れるのも、今回が初めてだ。

「この先は、いつ何が起きてもおかしくない。覚悟はええか?」

「ああ、行こう」

念を押す絢鷹に自信満々の笑みで頷き、二人は並んで陰に入っていく。背後で門が閉まる音がする以外、とても静かな空間だった。否、静かというよりは、生き物の気配を感じない、死んだ土地に立っているといった感じだ。

「大丈夫?しんどない?」

絢鷹は立ったまま動かないサイを心配気に覗く。その声に我に返ったサイは、絢鷹の目をみて頷いた。

「大丈夫だ」

「そか、よかった。たまにここの死気に当てられる子がおるんよ」

「死気?」

聞き慣れない言葉に首を傾げると、絢鷹は荒野を見渡す。

「この陰の地には、生き物は存在せぇへん。生気の全くない場所やねん。そこに生きた者が入ると、目眩起こしたり吐き気に襲われることがある」

ここは、生きていることの方が不思議な場所なのだ。本来死んだ者しか来ることのない場所。そこへ生身の生物が入ると、場合によっては体調を崩すらしい。

「平気やったら、行こか。とりあえず見回りせなあかん」

朱雀門の周辺を見回りし、近づく黄泉がいれば斬る。それが今回の仕事だった。
先を歩く絢鷹の半歩後ろを、サイも歩く。
しばらく歩けば、対象はすぐに現れた。地面を這い回る影。それはサイ達を見つけると一斉に集まり、立体的になっていく。

「これが黄泉…」

サイと絢鷹は背中合わせに立ち、刀と暗器を構える。

「中つ国にいる妖と戦うんとさして変わらへん。いくで!」

互いに同時に地を蹴り、影を切り裂いていく。黄泉の動きは鈍く、攻撃を避けるのは難しくなかった。背中を絢鷹に任せ、サイは向かってくる黄泉を確実に斬っていく。
周囲を片付けたところで、絢鷹とサイは再び背中合わせに立った。
黄泉は斬っても斬っても、次々に現れている。

「これは面倒やなぁ…」

「ああ、キリがない」

既に数十の黄泉に囲まれている。一匹ずつ相手にしていても、その間にも増える一方だろう。



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