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中つ国からここへ来て、約十日。この日サイは初めて討伐の依頼をされた。今までは高天原の居住区を中心に、手伝いや黄泉の情報収集をしていた。実戦に出てほしいと軍から言われたのは今回が最初だ。
月夜叉を差し、部屋に残るアカネに振り向く。

「行ってくる」

「うん。気をつけてね、相手の能力はまだまだ未知数だから」

寝起きのアカネは、寝間着のまま布団に正座してサイを見上げる。アカネもアカネで毎日高天原のあちこちを走り回り、少し疲れているようだ。ずっと行動を共にしている訳ではない為サイにも分からないが、太陽姫という立場も色々と大変なのだろう。早くに起こしてしまったことに罪悪感を感じつつ、サイは優しく頭を撫でる。

「起こしてすまなかった。まだゆっくり寝てるといい」

「ん、ありがとー」

目を擦りながら笑うアカネに背を向け、サイは指定された門の前に向かった。直接訪れるのは初めてだが、一番守りが薄いと警戒される朱雀門だ。朱く高い門は、屋敷からでも十分見え、道に迷うこともない。
居住区には店や民家も沢山あるが、まだ早朝だからかいつものような賑わいはなく、静まり返っている。時折見かけるのは、防衛軍の隊員らしき人物だけだ。

居住区を抜け、朱雀門の前に立つ。サイの話は通っている為、防衛軍の隊員達も不審がったりはしない。
静かに門を見上げ、サイは覇王を思った。高天原にいた時は、覇王は朱雀門を守っていた。この門を守りながら、朱雀は何を感じていたのだろう。今となっては知る術はないが、宿敵の原点に立ったような、不思議な感覚だった。
朱雀の力を右眼に封じた影響なのか、この門に大して妙な懐かしさを感じる。ほんの少し、右眼が疼いた気がした。

「おっ、早いなぁサイちょん」

背後からの特徴ある言葉遣いに振り向くと、絢鷹が右手を上げながら歩いてきていた。今日の討伐は、絢鷹と一緒にという話だったのだ。
サイの隣で立ち止まった絢鷹に微笑みかける。

「おはよう絢。今日はよろしく頼む」

そう言うと、絢鷹もにっこりと愛想よい笑みを浮かべる。

「こちらこそよろしくなぁ、頼りにしてるで!」

肩を軽く叩かれ、サイは含み笑いで頷いた。
絢鷹は防衛軍二番隊の隊長だ。共に戦うにはとても心強い上に、黄泉との実戦経験も豊富だ。これを機に、黄泉について聞きたいことも聞こうとサイは思っていた。



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