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綺羅は眉を側め、影熊の隣に移動し腰を下ろす。この少年も、幼い頃から孤独と戦ってきた。例え覇王に利用されようと、必要としてくれる存在がいるなら、なりふり構っていられない。
必死に自分の居場所を求めて生きてきたのだ。

「自分の存在を認めてくれるならさ、何でもしようって思えるんだよ。僕はそうだった」

今はこうして、綺羅と共に旅をし、サイ達とも打ち解けているが、影熊は存在を否定される悲しみや苦しみを知っている。

黄泉が本当にそんな苦しみの中にいるのなら。
人に憑く、という行為が彼らにとっての必死の存在主張なのだとしたら。

「こんなに悲しい者は他にないね」

「自分はここに存在すると、知らせたいのかもしれぬな」

口も利けない、ただの影。
それでも間違いなく心を持っている。

「俺達と同じ"心"があるのなら、分かり合えないことはないと思わないか?」

出雲の微笑みに、綺羅と影熊は頷く。
出雲は三年前も、綺羅に「敵の心を理解しようとする努力を忘れてはいけない」と教えていた。その言葉は綺羅に打撃を与え、綺羅が師を尊敬する最もな部分にもなっている。
何年経とうと、その思いやりある心は変わっていないようだ。

「出雲、私はお主に言われた言葉のお陰で、ひとつの命を救うことが出来た」

優しい眼差しで、影熊の頭を撫でる。照れ隠しからか綺羅を睨みながらも、影熊は心地良さそうにしていた。

「分かり合えないことはない。私も、そう思う」

多くの神が、黄泉を理解し、分かち合おうとすれば、その心は必ず黄泉にも届くはずだ。
無駄に争うことも、奪い合うこともない。

「お前さん達みたいに、頭の柔らかい子が沢山いればいいんだがね…」

実際はそう上手くいかない事は、出雲もよく分かっていた。
殆どの神が、黄泉は野蛮で恐ろしい負の塊であり、排除しなければならない危険な存在だと認識している。
それを覆すのは、容易なことではない。

例え天照が「黄泉と分かり合いましょう」と言ったとしても、神々は命令として受け入れるだけだろう。それでは何の解決にもならない。直ぐに亀裂が入るのは目に見えている。
根本的に解決しなければならないが、難しい話だった。



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