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部屋の中央に置かれた長い机。
その一番奥に座り、高天原の地図を眺めている影狼丸に向かって声をかける。
肘を着き、今後の行動を思案していた影狼丸は、視線をゆっくりいろはへと向けた。
「駄目だ。お前は怪我したばかりだろう」
いろはの首の生々しい傷を見て、影狼丸は首を振る。そのことにがっくりと肩を落としたいろはは、影狼丸の隣…斜め前に腰掛けた。その向かいには、リンカが座る。
「こんなん大したことねぇじゃん。ほら、傷もくっついたしぃ」
縫合された傷を指差しながら、影狼丸に近付ける。わかったわかったと言わんばかりに払いのけられ、いろはは拗ねたように脚を組んだ。
「お前にばかり行かせては意味がない。他の黄泉にも、神と戦ってもらわなくては」
まずは相手に慣れさせる。
それが影狼丸の考えだった。少しずつ襲撃し、危なくなれば引く。今はこれを繰り返し、黄泉達に神との戦い方を身につけさせるつもりだった。
力のある黄泉とはいえ、器がある状態で戦うのは、器のない時と全く違う。上手く動かせるか、能力を出しきれるか、試しているのだ。
「……リンカ」
「わかったわ。次はあたしが行く」
静かに名を呼ばれたリンカは、分かっている、と頷く。
「前に神と戦った時は、あたしもまだ影だったから女を乗っ取ったけど。今度はあたし自身がやる」
一度目に神と戦った時のことを思い出し、リンカは目を細めた。
「あの時は、人間に邪魔されたわ…腹を斬られたし…次会ったら容赦しない」
だいたい何故人間が邪魔をするのかと、リンカは苛々とした口調で言った。
「黄泉と神の問題よ。人間には何ら関係ないじゃない。むざむざ死にに来て、馬鹿みたい」
「その人間も、腕の立つ者のようだ。気をつけろ」
影狼丸が部下から得た情報では、神がわざわざ中つ国から呼び寄せた連中のようだ。ならば相当の手練れなのだろうと、リンカに念を押す。
「分かってるわよ。手向かう奴に情けをかける義理はないし」
「次、中つ国の者と見えたら…人間だろうと妖だろうと、詳細を報告してくれ」
敵になる者のことは少しでも知っておくに限る。
リンカは席を立ち、後ろ手に合図しながら出て行った。
「何故…わざわざ人間を呼んだんだ…?」
影狼丸の呟きに、いろはも「さぁな?」と首を傾げるばかりだった。
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