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扉を開けた格好のまま、呆れた表情で二人を見下ろすのはリンカだった。
灯もまともに点さないで、馬鹿じゃないの?とでも言いたげだ。
「俺様は明るくしようとしたぜぇ?けどヒナが暗い方が落ち着くって言うからァ」
言い訳をする子供のようないろはにため息を吐き、リンカはヒナに視線を投げた。
「ヒナ、アンタにもそろそろ動いてほしいの。いつまでこの部屋に閉じこもってるつもり?」
力のある黄泉達は皆それぞれ、神と戦うべく動いていた。器を手に入れて尚動かないのは、このヒナだけだ。
「雑魚は死ぬほどいるけど、あたしらみたいに器を得た力のある黄泉は少ないわ。同胞なら手を貸しなさいよ」
神に対し黄泉は圧倒的多数だが、それは器すら持たない弱小な黄泉を含めてのこと。
影狼丸やリンカのように、自我のはっきりした強い黄泉はそういない。貴重な戦力なのだ。
「俺は戦いたくない」
「だったら器を返しなさい。戦う意思のある他の黄泉に役立ててもらうわ」
リンカがきつく睨みながら言うと、ヒナはぐっと拳を握った。
やがて煮え切らないようにゆっくり立ち上がり、リンカの隣を抜けて部屋を出て行った。
その後ろ姿を目で追うリンカを見上げ、いろはは笑う。
「リンカちゃんこわー」
「うっさい!アンタ傷はどうなのよ、ちゃんと繋がったの?」
両手を腰に当て、前屈みになりながらいろはを睨む。いろははリンカに傷が見えるように顔を傾け、ニヤリと笑った。
「ちゃあんとくっついてるぜぇ?心配したぁ?」
眉を引き攣らせながら体勢を元に戻し、ビシッといろはを指差した。
「誰が!アンタなんかの!心配!するもんですか!」
一息一息全力で言われ、いろははゲラゲラと笑う。ふんっ、と息を吐いて出ていくリンカを追い、いろはも暗い部屋を後にした。
先程までいた部屋があまりに暗過ぎて、まだ視界が眩しいのか目を細めている。部屋のあちこちに点いた松明と、窓の外から入り込む太陽の光で、この部屋は十分に明るかった。
「影ぇ、俺様また行ってい?」
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