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薄暗い室内。
石畳の広い部屋を照らすのは、四隅に置かれた蝋燭の光だけだ。十分に照らすことは出来ず、点いていることがまるで無意味のようだ。心許ない灯の中、動く影が二つ。
一人は座り、一人は膝立ちした格好で、膝立ちしている方が座っている方に何かをしている。
まるで糸で何かを縫うような、そんな動きだ。

「いっててて…もうちょい優しくしてくれよヒナァ…」

「首を裂かれた痛みの方が上回ってるだろ、普通」

座っているのはいろはだ。
先の絢鷹との戦いにより裂かれた首を、仲間に差し出していた。
真横にスッパリと裂かれた首からは、だらだらと血が流れている。暗い室内では、まるで墨が首を伝っているように見えた。
その首の傷を縫合しているのが、ヒナと呼ばれた男だった。
糸も針も、影のように黒い。ただ灯が薄いからそう見えるだけではないようだ。
糸はどこまで縫っても短くならず、ヒナ自身の影からどんどん伸びている。針も糸もこの男が造ったもののようだった。

「斬られたとこは最早なんも感じねぇー」

「首を斬られ…これだけ出血しながらも平然としているお前が不思議でならない」

普通の生き物は、動脈を裂かれそのままにしていれば血を失い死ぬ。
心臓の次に急所とも言える場所に致命的な傷を負いながらも生きているのは、いろはが生き物ではないからだろう。
だから生きている、という言葉はややしっくりこない。
じっと座っていることが退屈になってきたいろはは、早く終わらないかと左右に体を揺らす。

「ゆらゆらするな。じっとしろ、手元が狂う」

少し苛立ちを滲ませたヒナの手元は、それでも的確に動いていた。この暗闇の中、それだけでも凄いことだと思うが、それ以前にヒナは目を使っていなかった。
黒い布で目を隠しているのだ。つまりそもそも何も見えてはいない。にも関わらず、まるで見えているかのように、動かす手元には迷いがなかった。

「人の首縫う時くらい目隠し外せよなァ」

「……駄目だ。血を見てしまう」

頑なに拒否する様子に、いろはは薄ら笑う。
ヒナは目が見えない訳ではない。わざわざ見えなくしているのだ。いろはの仲間であるヒナもまた黄泉だが、この男は少し変わっていた。
血を恐れ、戦いを望まない。
強い者を見ると戦いたくなるいろはとは全くの正反対な性格だった。



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