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山茶花は目を見開き、言葉を失う。
三年前とは違う、大人びた顔。落ち着きの出て来た言動。すこし伸びた髪……その全てが、時が経っていることを知らせる。
眉を側め、苦々しく唇を噛み、山茶花は顔を背けた。

「サザンカさん?」

切なげな顔をする山茶花の心が分からず、焔伽は僅かに首を傾げる。

「…そうやって、お前は私を置いていくんだな」

顔を背けられたまま、絞り出すように紡がれた言葉に、焔伽は押し黙る。

「私は…私達は、何も変わらないままなのに」

何が言いたいのか察しのついた焔伽は、右下に視線を落とす。
山茶花は神で、焔伽は人間だ。
たった三年間で人間は容姿も年齢も変わるというのに、神にはそれがない。老いることがない。
それはつまり、どうあっても焔伽が山茶花を追い越し、先に死へと向かうということ。

「…確かに、十八だった俺はもう二十一になった。俺だけじゃない、サイや、姫ちゃん達も同じだけ年を重ねる」

以前、五年差があった焔伽と山茶花は二年差に縮まっている。あともう三年もすれば、追い越されてしまう。

「けど、先が見えちまってたとしても、俺は…」

「それは…!それはお前が人間だからそんなことが言えるんだ!」

老いていく姿を見、いずれ残されてしまう者の気持ちは、人間には分からない。
焔伽の成長は嬉しいが、時が過ぎるということに対しては恐れしかない。それが山茶花の本心だった。

「……すまない、ただの八つ当たりだ」

「…サザンカさん、だったら……」

焔伽は遠慮がちにそこまで言い、寸の間考えた後、やっぱりいいと首を振った。
言ってしまえれば楽なのは分かっていたが、やはり言葉にすることは出来なかった。

暫くの沈黙の後、焔伽は懐から静かに箱を取り出した。木製の薄く四角いその箱は、中つ国を出る時に持って出たものだ。サイにははぐらかしたが、これは山茶花の為に持っていた物だ。

「サザンカさん」

ゆっくりと手を引いて、山茶花を起こす。不思議そうに箱と焔伽を見つめる山茶花の前で、木箱を開けた。
中身を見た山茶花の目は見る見る大きくなり、うっすらと口を開けたまま焔伽を見上げる。

「これ…」

「中つ国の商人から買ったもんで、リボンっていう異国の髪飾りらしい」



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