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その微笑みを見た焔伽は、言葉を失った。夕焼けに照らされた山茶花の微笑みは、美しくもあったが、何故だかとても儚く映ったからだ。
山茶花は今、何を考えているのだろうと、焔伽は黙ったまま彼女を見つめる。
見方を変えれば、何か腹を括ったような、吹っ切れた表情。嫌な予感がして口を開きかけると、山茶花は自分の腹の傷に触れながら話し始めた。

「お前があの時止めてくれなければ、私は…絢鷹や茶々まで手にかけていたかもしれない」

「…痛い思いさせて悪かった」

焔伽にとっては不本意なやり方だったが、それしか方法がなかったのも事実。
顔をしかめる焔伽に、山茶花は笑みを浮かべたまま首を振る。

「お前の判断は正しかった。あの時私は、殺せと言ったがな」

「俺がサザンカさんを殺せるわけねぇだろ」

相変わらず甘いな、と山茶花は苦笑する。

「正直…お前の顔を見た時、焦ったよ。本当に間の悪い奴だって…。お前を…」

お前を斬り殺したら、どうしようかと思った。

そう呟いた山茶花の瞳は、僅かに揺れている。その切なげな目には、幾つもの思いが浮かんでいた。
そんな顔をさせているのが自分だと分かっている焔伽は、膝の上でぐっと拳を握る。

会えない三年間は長かった。
すぐに戻ると約束したのも、焔伽自身だ。
茶々からも聞いたが、山茶花はきっと毎日、思っていてくれたのだろう。

「久しぶりに会ったのに…気付いたら殺してました、なんて洒落にならないところだった」

安堵から、山茶花の声が震える。
焔伽は山茶花に近づき、肩に手を添えゆっくり自分の胸に引き寄せた。ちょうど、山茶花の耳が焔伽の心臓の位置にくる形。

「ちゃんと生きてるよ」

しんとした部屋の中、山茶花に聞こえるのは焔伽の小さな声と、確かに生きていると伝える心臓の音だけだった。
耳を澄ませ目を閉じる山茶花の頭に、焔伽は顔を寄せる。

「長いこと待たせて、ごめんな」

「待たせ過ぎだ…馬鹿」

身を離し、焔伽と真っ直ぐ向き直り山茶花は口を尖らせる。そんな子供っぽい仕種に、思わず笑みが浮かんだ。

「俺ちょっとは変わったろ?男前になってねぇ?」

「なぁにが男前だ、まだまだガキのくせに」

三年前のようなやり取りで、山茶花はあしらった。しかし、トン、と肩に焔伽の手が触れたと思った瞬間、視界が反転する。
布団に押し戻すように、山茶花は押し倒されていた。
言葉も出ないまま唖然と焔伽を見上げると、空色の瞳は細められた。

「悪いけど、もうガキじゃねぇんだ」



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