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「俺は、そろそろ…失礼する」
「おう」
遥は静かに立ち上がり、襖を開ける。アカネに一礼して、丁寧に襖を閉めた。
それに促されるようにアカネも立ち上がった。
「サイ、あたし達もそろそろ行こっか」
見下ろすアカネに、サイは頷いた。
「そうだな。燕志、ことり、仕事中にすまなかった」
「いやぁ、気にすんな。今度ゆっくり一杯やろうぜ」
酒の入った杯を持ち、くいっと飲む仕種をしながら燕志はニッと微笑む。その様子にことりは呆れたとため息を着き、サイ達に笑顔を向けた。
「またいつでもいらして下さいね」
「うん、またね!お邪魔しました」
アカネは手を振り、襖を開けて部屋を出る。続いてサイも部屋を出、襖を閉めた。
廊下を歩きながら、サイは外していた眼帯を着ける。
「あれ、着けるの?」
「外してるのも何か落ち着かないんだ」
今までずっと着けていたものだから、外したら外したで違和感を感じてしまう。それを聞いたアカネは笑いながら、屋敷を進んだ。
「まだどこかに行くのか?」
四、五番隊にはもう会った。そう言いたげなサイを見上げて、アカネは頷く。
「あと一人、絶対会っておいた方がいい人がいるんだ」
アカネに連れられるまま、屋敷をどんどん奥へ進む。途中床に開いていた階段を下り、地下に入っていく。薄暗く、壁は岩肌が剥き出しだが、ちゃんと整備されているからか汚くはなく、床も地面ではなく木だ。
壁に一定間隔で置かれた松明の明かりが怪しく揺らめき、サイは少し前を歩くアカネの背を見つめる。
「変わった場所にいるんだな、その、会いに行く人物は」
「んー、そうだね。あんまり外には出ない人だから」
アカネの声色的に、危険な人物ではなさそうだ。やがて、先程までの屋敷に不似合いな重々しい鉄の扉が表れ、アカネはその扉の取っ手を二回鳴らす。
左右にゆっくりと開かれた扉の向こうは、まるで武器庫のように壁一面にあらゆる武器が並べられている。
畳の上に、入口に背を向けて座っている人物を見つめ、アカネは数歩近づいた。
「千代菊」
名を呼ばれた人物は、座ったままゆっくりと振り返る。紅色の髪を半分ほど左右で高く結び、残りは下ろしている。伏し目がちだった目が、アカネへ向けられた。金色の、美しい瞳の少女だ。
「来る頃だと思っていた、火明」
鈴が転がるような透き通った声。
アカネは微笑み、サイを見上げる。
「この人は千代菊。高天原防衛軍を束ねる、総隊長だよ」
「なに…?」
サイは千代菊を凝視する。
このあどけなさの残る少女が、高天原防衛軍を統括している。
想像とは全く異なる人物に、サイは驚きを隠せなかった。
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