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「…………燕志…入るぞ」

燕志は返事をし、外からの声に聞き覚えがあるアカネはサイを見上げた。

「ちょうど良かった!」

「?」

襖を開け入ってきた男は、紺色の髪をひとつに三つ編みした、空色の瞳の男だった。右手に何かの書物を抱え、襖を閉める。
中に思いの外人がいたことにぎょっとしたように、顔に一瞬困惑を浮かべ、燕志の側に歩み寄った。

「…名簿だ……確認、頼む」

「おお、分かった。わざわざすまねぇな遥」

そう言って渡された書物を、燕志はことりに預ける。受け取ったことりは、机を整理してなくさないように書物を置いた。
遥と呼ばれた男は、そのまま部屋を立ち去ろうと襖の方を向き、そこで初めて何かに気づいた様子で目を見開いた。

「……火明様…!」

アカネがいたことに気づかず、そのまま通り過ぎていた遥は慌てて膝を着く。それを見たアカネも慌てた様子で、膝立ちし遥に近づく。

「は、遥さん、そんなに気を遣わなくていいよ」

顔を上げて、と言うと、耳を垂れた犬のように、申し訳なさそうな目でアカネを見上げる。
そして、何か言いたげにアカネの右手を取り、両手で包むように握る。
唇を噛み、視線を泳がせる遥を、アカネはにこにこと見つめている。首を傾げるサイに振り向き、アカネは口を開いた。

「この人は、五番隊隊長の遥さん。ものすっごく人見知りで恥ずかしがりやなの。だから言いたい事を伝えるのに時間掛かっちゃうけど、待ってあげてね」

相手の手を握るのは言いたい事がある証、勇気を振り絞っている最中なのだとアカネは言う。
その言葉に遥は顔を赤らめ、アカネを見つめ、意を決して口を開く。

「…ご機嫌、麗しゅう…ございます」

「ありがとう」

アカネが微笑むと、遥も微笑んで手を離した。言いたい事はただそれだけだったようだが、どうやら遥にとっては、それを伝える事にもかなりの勇気と心の準備が必要そうだった。

遥は綺麗に正座したままサイに向き直り、気恥ずかしそうに目を逸らす。

「…中つ国からの、援軍…か?」

「ああ、俺はサイ。共に戦うことになるかもしれないが、宜しく頼む、遥」

緊張させないようにと、サイは微笑みながら言う。遥はちらっと一瞬だけサイと目を合わせ、頷いた。
膝の上で拳をぎゅっと握る姿にアカネは可愛い、と笑みを漏らす。

「ははっ、遥は確かに極度の人見知りだが、隊長としての実力は十分だぜ。まぁ慣れるのにちっと時間は掛かるが、そのうち待ち時間も短くなるさ」

燕志が言う待ち時間とは、遥が言葉を紡ぐ前の心の準備時間のことだろう。

「ああ」

サイは含み笑いで頷いた。確かに遥からは実力者の品格が感じられる。戦場に立てば、また違うのかもしれない。



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