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「ん?よぉ…!」

襖を開けたアカネとサイを見ると、机に向かい、背もたれ付きの足のない座布団椅子に座っていた燕志は笑顔を向ける。
側には女性も一人いて、書類整理をしていた。女性もまた、入ってきた二人に笑顔を向ける。

「燕志さんこんにちは、今いいかな」

「おお、どうした火明。んでサイ」

座ったまま、椅子をぐるりとアカネの方に向け、燕志は机に置いていた煙管を咥える。

「挨拶回りに。昨日はあまり話も出来なかったからな」

「そうかそうか、わざわざすまねぇな。改めて、俺は燕志。四番隊の隊長だ。で、こっちが俺の女房のことり」

燕志は隣にいる女性を顎で差す。深緑の髪を団子状に纏めた洒落た袴姿の女性…ことりは、軽く燕志を睨む。

「もう、今はお仕事中やないですか。ちゃんと紹介して下さいていつも言うてるでしょ?」

京訛りでそう言い、両手を腰に当てる。燕志はやれやれ…と片眉を下げ、一度だけ煙管を吹かした。

「こいつは四番隊の副隊長だ。んで俺の嫁さん」

「夫婦なのか…」

隊長と副隊長が夫婦関係ということもあるのかと、サイは些か驚きを滲ませる。
ことりはくすくすと笑い、サイの前に座った。

「初めまして、サイ様。サイ様のことは、火明様からよく聞いとったんですよ」

「アカネから?」

サイがアカネを見ると、アカネは顔を赤くして慌てたようにことりに身振り手振りで怒る。

「そ、それは言わないでってば!」

「ふふ、ええやないですか。お話通り、素敵な殿方でおますなぁ」

「もう…」

アカネは顔を赤くしたまま肩を竦め黙り込む。サイがいない間に、否、サイと再会するまでの三年間に、アカネはサイのことをことりによく話していたのだ。言わば友達のような間柄なのだと、ことりはあっさりとサイに打ち明けた。

「何や、隠す事やおまへんやろー?」

「恥ずかしいじゃん…!ことりの意地悪ー!」

「だはははっ!若いってなぁ良いねぇ!」

そんなやり取りを見て、燕志は獅子が吠えるように豪快に笑い出す。

「まぁとにかくだ。これから宜しく頼むぜ。朱雀を殺った男ってな感じで、お前のことは結構有名なんだよ」

朱雀とは覇王のことだ。
まさか高天原にそんな話が広がっていたとは思わず、サイは目を丸くする。

「アイツに右眼を呪われたらしいな、祟り眼…だっけか」

燕志はサイの眼帯を見つめながら、トントンと灰皿に煙管を当てる。

「ああ、今はもう解けたがな」

覇王を倒し、血を浴びたことで右眼の呪いは解けた。身体を蝕む痣ももうなく、不自由なことはないとサイは言った。


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