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軍の隊員と思われる神々と何度もすれ違い、その度に「火明様」と一礼されながら、サイとアカネは奥へ進んだ。
「最初は慣れなかったよ」
「火明様、か?」
歩きながら、アカネは含み笑いで言う。サイの返事に頷き、すれ違う隊員に会釈する。
「だって歩いてるだけでお辞儀されることなんてないでしょ?」
「まぁ確かにそうだな」
アカネは太陽神であり、天照の娘だ。言わば姫君であるアカネが通れば、誰しもが頭を下げ、出会えた日には今日は良き日だと喜ぶ。
17年間普通に過ごしてきたアカネには、その違和感に慣れることも大変だったようだ。
「あっ!」
アカネが前方を見つめて声を上げる。その先には、サイにも見覚えのある女性の姿があった。
特徴的な髪型と凛とした雰囲気。
「茶々!」
「!火明様」
振り返った茶々は、アカネの姿を見て一礼する。
「どこか行くの?」
二人が歩いてきた方向、つまり本部の入口に向かっている茶々に、アカネは何気なく問い掛けた。茶々は微笑み、頷く。
「隊長のお見舞いに行こうと思いまして」
「あ、山茶花か。そうだね、きっと喜ぶよ」
山茶花はまだ目を覚ましていないが、それでも顔を見せればきっと喜んでくれるはずだ。
「火明様とサイ様はどちらへ?」
「軍の者に挨拶をと思ってな。この先、共に戦場に立つこともあるだろうから」
サイが言う。
茶々は成る程、と笑みを浮かべる。黄泉が襲って来ないからか、茶々の表情もどこか穏やかだ。
「是非そうして下さい。隊長方も、中つ国からいらした貴方方に興味を持っておいででしたから」
サイは頷き、茶々はではこれで、と話を区切り山茶花の元へ向かって行った。
「うーん、全員は勿論無理だから、取り敢えず四、五番隊のところに行こっか」
全部で五隊に分けられている軍の、一、二、四、五番隊はよく討伐などの戦闘をする部隊らしい。三番隊はどちらかと言うと軍全体の補佐役であり、作戦の指揮等を担当する部隊だとアカネは言う。
一番隊は山茶花の隊だし、二番隊は絢鷹だ。四番隊は燕志だが、この間あまり話は出来なかった。五番隊に関してはサイは全く顔を合わせた事がない。
「隊長さんって、皆いい人なんだよ。会うまでは怖い印象あったんだけど、そんなの全然なかったし」
アカネは楽しげに話しながら、まずは四番隊の隊長室に入った。
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