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師を取り戻し、黄泉の襲撃による騒ぎも徐々に落ち着きを取り戻してきた。
この日サイは朝から自室で書物を読んでいる。高天原のことを少しでも理解したいと思ったからだ。三年前に一度来たことがあるとはいえ、サイはまだ高天原を詳しくは知らない。黄泉討伐の声が掛からない今のうちに、出来るだけの知識を得ようとしていた。

「サイ、まだ読んでるの?」

怪我人の手当てを手伝っていたアカネも、今朝から手が空いている様子で、黙々と書物に目を通すサイを見つめる。

「ああ、高天原と中つ国は、繋がってはいるが世界自体が異なる。色々と理や在り方も違うからな…知っておきたい」

今戦うべき相手である黄泉にしても、中つ国には存在しないものだ。黄泉も元々は妖だと言うが、妖と黄泉がどう違うのかも、まだいまいち分かっていない。

「敵を知らないまま戦う訳にはいかないだろ?」

「まぁ、そうだけど」

真面目だなぁと思いながら、アカネは敷きっぱなしだった布団を畳む。
勘と勢いでいきなり黄泉の世界に入った焔伽とは正反対だ。アカネもどちらかと言えば、その場の勢いや流れに飲まれて行動しやすい為、余計にそう思う。

「ね、サイ。読んで学ぶのも良いけどさ、見て学んだ方がもっと良いと思うよ」

百聞は一見に如かずと言う。
アカネの提案に、サイは会話を始めてからようやく、書物から目を離し、アカネを見た。

「見て学ぶ?」

「うん、今日は高天原も落ち着いてるし、色々案内するよ」

三年間高天原で過ごしたアカネは、大体のことを理解している。サイは頷き、書物を閉じて立ち上がった。

「軍の人に会いに行こ。きっとこの先お世話になると思うから」

黄泉の討伐を受け持つ神の殆どが、防衛軍の者だという。ならば討伐の際、共に行動することも多くなるだろうからとアカネは付け足した。

「わかった」

高天原に詳しいアカネの意見に賛成し、サイとアカネは部屋を出た。
廊下で昼寝をしている焔伽と影熊の後ろを静かに通り過ぎ、軍の本部へと向かう。

高天原は様々な屋敷が建ち並んでいるが、太陽の宮の次に巨大な屋敷が、防衛軍の本部だった。戦う為に集った神々が集まる場所。流石に屋敷自体も他より重々しく、存在感がある。
門を通り、屋敷…というより城に近い本部に足を踏み入れた。


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