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血の着いたクナイを振り、構え直す。いろははその姿に顔をしかめながらも笑みを浮かべた。
「ハハッ…良いな、お前。何て名だァ」
ぼたぼたと血を垂らし続けているにも関わらず、いろははあまり気にしていないようだった。
動脈を斬った故に、出血は甚だしい。普通は立ってなどいられないはずだ。
「…絢鷹。…二番隊隊長、絢鷹や」
「絢鷹…覚えたぜぇ。てめぇは俺様のもんだ、他の奴には殺らせねぇ…!」
血の伝う唇をニヤリと吊り上げ、いろはの足元に闇が広がる。ハッとした絢鷹がクナイを投げたが、刺さるより先に闇がいろはを包み込んだ。
「またな絢ァ。次はその顔快楽に歪ませてやるよ」
「何…待て!」
駆け出す絢鷹を笑うかのように、闇はスルリと消えていった。
「…………」
黙って闇が消えた場所を睨む絢鷹の頬を血が伝う。頬だけでなく、左腕も着物が赤く染まった。
「…!斬られとったか…」
頬の血を親指で拭い、空の闇を見上げる。
やはり黄泉は肉体を手に入れていた。だがいろはの容姿は、高天原で見たことのない顔をしていた。死体をそのまま器にした訳ではないのかもしれないと、絢鷹はそう思った。
「…一度戻った方がええか」
愁麗の捜索もしたいところだが、今はいろはについての報告を優先させ、絢鷹は居住区へと踵を返した。
しかし、隊長格とほぼ互角に渡り合えるほどの実力を持った黄泉が現れるとは。
この先の戦いは苦戦するかもしれないと、眉を側めた。
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