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朱雀門を抜け、絢鷹は単身、陰へと足を踏み入れた。陰には今までも任務で何度も訪れているし、黄泉との実戦経験も多い。
絢鷹が門を通るのを止める者は誰もいなかった。
殺伐とした陰の大地は、以前にも増して枯れているような気がする。絢鷹は常に周囲を警戒しながら、身軽に移動した。
今陰には、絢鷹だけでなく様々な隊の隊員がいる。黄泉の討伐であったり、情報収集であったり様々だ。
時折、黄泉との戦いにより息絶えた隊員が視界に入る。しかし絢鷹は、それに表情ひとつ動かすことはない。今はひとりの忍として任務を遂行している。
余計な感情を殺すことは、二番隊の掟のようなものだった。
忍に感情は不要…先代、先々代からずっと受け継がれてきた意思だ。
鋭い眼差しで、瞬時に移動しながら周囲を伺う。

やがて大きな岩先に殺気と人の気配を感じた絢鷹は、気配を殺し、岩影に潜んで様子を伺った。

「…!」

絢鷹が見たものは、倒れる二番隊隊員二人と、敵らしき男に首を締め上げられている部下の姿だった。
絢鷹は懐からクナイを抜き、敵に向かって投げ飛ばす。

「ん…?!」

クナイに気付いた男は、片手で締め上げていた男から手を離し、素早く間合いを開いた。
暗器を指に滑らせながら、絢鷹は男の前に歩み寄る。

「た…隊長…!」

生き残った隊員は苦しげに噎せ込みながら、隊長である絢鷹を見上げる。

「ご苦労さん。こいつはウチが引き受ける、はよ戻って手当てしてもらい」

穏やかに、だが殺気を消さないまま言うと、隊員は一礼して姿を消した。部下の気配が遠退くのを感じながら、絢鷹は目の前の男を睨む。

「お前は…黄泉やな」

「へぇ、よく分かったなぁ神」

神と何ら変わりない容姿。最早影だけの姿ではなくなっている。
やはり肉体を手に入れたのか。
そう思った絢鷹の心を読んだかのように、金髪の男はニヤリと笑う。

「いろは…仲間から聞かなかったか?」

「!お前が…」

燕志が言っていた、出雲に憑依した黄泉の名が確かいろはだった。どうやら、人違いではなさそうだ。

「聞いてるみてぇだなァ」

「同胞がえらい世話になったみたいやな」

絢鷹が睨むと、いろはは声を上げて笑い出す。

「ハッ、ちっと掻き回してやっただけだぜぇ?オイ」

「借りは返す…覚悟せぇや」

武器を構えた絢鷹を見て、いろはは楽しそうに口角を上げた。



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