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「はい、ええよ。あ、飲ましたろか?」

薬の準備を終えた絢鷹は冗談混じりに暁を覗き込む。
ぷっ、と吹き出し、自分で飲めます、と暁は笑った。
その顔も、暁自身の性格も温かく優しいものなのだが、顔色は悪く、白湯を持つ指はまるで死人のように白い。
薬を飲み干す様子を見つめながら、絢鷹は僅かに眉を側めた。

暁は、祟りを受けている。
数年前、絢鷹と共に任務に出た暁は、黄泉との戦いで顔の左半分に傷を負った。
鵺という黄泉により付けられた傷。鵺は暁に傷を負わせた直後絢鷹によって始末されたが、思わぬ不幸を残していったのだ。

暁の顔左半分に刻まれた鵺の爪痕。
その傷から流れる血は、拭っても拭っても止まらず、止血薬や治癒術を持ってしても治りはしなかった。傷は塞がらず、延々と出血し続ける。それは、鵺が暁に穿った呪いだった。
祟りを解く方法が分からず、その日から暁は、刻々と失われていく血を薬によって補っていくことしか出来なくなった。
出血だけではなく、身体に痛みも伴っているらしく、一日の大半を祟りによる苦痛で過ごしている。

絢鷹はその日の後悔を引きずり続けていた。暁が傷を負ったのは、絢鷹を庇った為だったからだ。
あの時の僅かな油断により、目の前の部下が苦しみを背負うことになってしまった。罪悪感に押し潰されそうになりながらも、絢鷹には笑顔で接することくらいしか出来ない。

「…隊長」

「ん?」

空になった湯飲みを見つめながら、暁は静かに呼ぶ。絢鷹は首を傾げ、言葉を待った。

「解職して下さい。俺を、副隊長から」

暁は二番隊の副隊長だ。
隊では絢鷹の次に実力ある忍ということになる。

「暁…」

「俺は動けません。高天原が一大事だと言うのに、俺は任務に出るどころか、まともに起き上がることすら出来ない…そんな者が忍を、副隊長を名乗る資格はありません。もっと適した人物を…」

「暁」

絢鷹は言葉を遮り、窘めるようにじっと暁を見つめる。

「それは言わん約束やろ?」

穏やかに紡がれた言葉に、暁は顔をしかめる。

「今はそんな場合じゃありません…!隊長の隣に立ち、隊を纏める補佐が必要です!」

「ほんなら、早う善くならなな?」

真剣に話す暁に対し、絢鷹は穏やかで微笑んだままだ。暁は唇を噛みしめ、布団に視線を戻す。

「俺はもう、貴方の役には立てない…絢鷹様…」

「今はウチが、暁の役に立つ番やねん。隊のことは何も心配せんと、ウチに任しといたらええ」

湯飲みと残りの薬を片付けながら絢鷹は言う。

「祟りを解く方法…必ず見つけるから、待っとき」

振り返り、強い意思を込めた瞳に見つめられ、暁は苦笑し、ぼそりと呟く。

「隊長の頑固」

「あっ、ゆーたなぁ?ほんならもっと頑固なったるさかい、覚悟しときや」

寸の間笑い合い、さて、と絢鷹は立ち上がる。

「任務行ってくるわ。安静にしときや」

暁を見下ろし、念を押すように人差し指を向ける。

「はい……どうか、お気をつけて」

血の滲む包帯を押さえる暁に頷いてみせ、絢鷹は陰に向かうべく、屋敷を後にした。



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