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「そうですか…黄泉がそんなことを」

「はい、目的は定かではありませんが、黄泉は今よりもっと勢力を増して来るやもしれません」

太陽の宮。
天照の前に膝を着き、状況報告をしているのは絢鷹だ。先の山茶花奪還の際に目にした事と、サイ達との話し合いにより浮かび上がった仮説を報告していた。
総隊長への報告は燕志に任せている。

天照は高天原の主神ではあるものの、全てを司っている訳でも、全てを知っている訳でもない。
太陽の神という立場は確かに高天原ではこの上ない権力を持っているが、完全無欠の存在ではないのだ。
知らなかった黄泉の詳細を知り、天照は涼やかな顔を僅かにしかめる。
隊員の死体を連れ去った黄泉が、良いことをしようとしている訳ではない事は明白だった。

「絢鷹、次の任務を言い渡します。陰を探索し、黄泉についての情報を集めて下さい」

頭を下げていた絢鷹は、鋭い眼差しで天照を見上げる。

「御意」

短く答えた後、絢鷹は広間から音もなく姿を消した。
残された天照は苦い表情で、後ろに控えていた月読に振り返る。

「動けぬというのは、辛いものですね」

動ける神々が総動員で黄泉と戦う中、天照だけは戦うことも、戦場から戻った仲間の治療を手伝う事も出来ない。

「貴女は、太陽ですから。どんな状況下でも、そこに凛としていなければならない方ですから…」

太陽に何かあっては、それこそ高天原が崩壊してしまうと、月読は静かに告げる。

「貴女がいらっしゃるだけで、貴女のお顔を一目見るだけで、元気になる者は沢山おります。貴女は、空のように闇に飲まれる事なく、温かく輝いていて下さい」

高天原の美しい空を黄泉の闇が覆うにつれ、天照からは笑顔が消えていた。
この状況で笑っていろなど、酷な事とは月読も分かっている。だがそれでも、太陽は曇る訳にはいかないのだ。月読は太陽の影である月として、天照を諭す。

「月読…」

月読の言葉に納得したのか、天照は反省したように苦笑する。
そして、いつもと変わらぬ温かな微笑みを浮かべ、頷いた。

「貴方の言う通りです。私が…太陽が曇る訳には参りませんね」

表情や声色が穏やかになった天照を見てほっとしたのか、月読にも笑顔が戻る。

「信じましょう、我が同胞を」



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