2


「どうして…さっきまで」

「器を手に入れた…俺達は、命を手に入れた」

愁麗の言葉を遮り、影狼丸は自身の胸元を握った。心臓の鼓動を確かめるように目を伏せ、やがてゆっくりと瞼を開く。

「器を得た今も黄泉であることに変わりはない」

「…どうやって、器を…」

愁麗の問いに、影狼丸は愁麗の正面から退いてみせる。向かいの牢屋が空になっていた。先程黄泉が…恐らくいろはとリンカが、向かいの牢屋に死体を投げ入れていた。それが今は何もない。

「まさか…死体に、憑依したんですか…?」

「ンな訳ないでしょ?誰が神の死体なんかに憑きたいもんですか」

リンカは不機嫌に腕組みをして愁麗を見下ろす。睨むような鋭い眼差しには、憎しみすら感じられた。

「俺達はあの死体を基にして、自らの器を作った。死体は材料に過ぎない」

死体から器を作る。
黄泉がそんな知恵と能力を持っていたことが信じられず、愁麗は言葉を失う。

「あたしらのこと、馬鹿だと思ってた?口すら効けない存在だもの、お偉い神様から見たらゴミみたいなもんだったでしょうね」

愁麗は神だ。
リンカの言葉には、神に対する恨みにも似た棘が含まれていた。

「そんなことは…!」

否定しようとした愁麗だが、言葉が続かない。紛うことなき事実だったからだ。愁麗自身はそうは思っていなくとも、神々の多くが黄泉を低俗で野蛮な存在だと認識している。

言い淀む愁麗に苛ついたのか、リンカは踵を返し地下を出ていく。いろはは何も言わず、だが何かを思案した真剣な顔つきで、リンカの後を追った。
地下に残されたのは、愁麗と影狼丸だけだ。

「俺達以外にも、力のある黄泉は同じ手段で器を手に入れた」

流石に黄泉の全てが器を得られる訳ではないようだが、影狼丸の口ぶりから、まだ他にも強力な黄泉がいるのだと確信出来た。

「何を…するつもりですか…」

愁麗の言葉が地下に木霊する。不安の滲んだ声色が反響し、消えていった。

「認めさせる…ただ、それだけだ」

独り言のように呟かれた影狼丸の言葉は、どこか物悲しく儚かった。微かに揺れる赤い瞳を見つめ、愁麗は眉を寄せる。

「それは、どういう…」

認めさせるとは、誰に、何を。
その問いに影狼丸が答えることはなかった。

「…お前の身の安全は保障する。安心して良い」



[ 43/171 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -