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「実験は成功した」

「みてぇだなァ、やっと自由に喋れるぜェ…器も、悪くねぇし?」

「器手に入れただけで満足しないでよ?あたしらの目的はこれからなんだから」

男女の話し声。
壁に反響し耳に届いたその声に、愁麗はゆっくりと目を覚ました。

「ん…っ…」

小さなうめき声に気づいたのか、話をしていた男女は頭を押さえながら身を起こす愁麗に視線を移した。

「ひゃはっ!お姫様のお目覚めだぜぇー?」

檻の柵を掴み、愁麗を覗き込む男。金色の短髪で、右前髪が黒く染められている。左横を三つ編みした男は、少々露出気味の格好だ。
舌なめずりをしながら愁麗を見下ろすのは、赤い瞳。

「んぁ?怖くて声も出ねぇのかぁ?」

「馬鹿みたいだからやめなさい、いろは」

「あぁん?馬鹿っつー方が馬鹿なんだしぃー。リンカのばぁーか!ばぁーか!」

「うっさい!苛々するから黙ってなさいよ!」

リンカと呼ばれた少女は、梅鼠色の髪を両横でくるりと曲げて留めている。紫の裾の短い着物を身に纏い、翡翠色の瞳は苛々と細められた。

「こいつに口なんて要らなかったんじゃない?全く…」

呆れた様子でいろはから視線を逸らしたリンカと愁麗の視線が合う。
愁麗の瞳には困惑が映し出されていた。気を失う前まで、ここに人などいなかったのだから。
リンカは特に何を言う訳でもなく、視線を逸らす。

「気分はどうだ」

「超良い感じー!」

「いろは、お前じゃない」

両腕を軽快に動かしながら言ういろはの横を通り過ぎ、長い黒髪の男が愁麗の檻に歩み寄った。目の下には隈のような影が掛かり、髪の長さはバラバラであちこちに跳ねている。
赤紫の衣を着たその男は、柵の前にしゃがみ、愁麗を覗く。

赤い瞳…愁麗はその目を見るなり、先程の黄泉を思い出した。
まるで姿が違う。だがどうしても、愁麗にはあの黄泉と目の前の男が別人とは思えなかった。

「…影狼、丸…?」

半信半疑でそう問い掛けると、男は微かな笑みを浮かべた。それは恐らく肯定という意味だろう。
愁麗は戸惑いを隠せないまま、影狼丸を見つめる。
気を失う前まで、黄泉だった。影でしか無かった彼が、今は肉体を得ている。言葉を話している。
まるで愁麗と同じ、神のように。



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