5


黄泉は再び指を動かし、砂に文字を書く。

― 必要だったからだ ―

「…必要?何にですか?」

眉を側め、愁麗は影狼丸を見つめる。だが、その問い掛けには応じてはくれなかった。

「ここは何処ですか?」

質問を変えると、影狼丸は文字を書いた。

― 黄泉の本拠地だ ―

本拠地ということは、此処には高天原の何処よりも黄泉がいるということなのだろう。
つまり周りは敵だらけだ。愁麗の瞳が恐怖に震えるのを見、影狼丸は文字を続けた。

― 殺すつもりはない ―

綺麗な文字は、まるで愁麗を安心させるかのような言葉。
益々分からなくなった愁麗は困惑した表情で影狼丸を見つめる。影狼丸の、黄泉の目的が分からない。

「生かしたままここに閉じ込めて、どうするんですか?」

― 神の元に居られては都合が悪かった。その力は俺達の目的の邪魔だ ―

二行に分けて書かれた文字。力というのは他でもない。理の姫の…愁麗の、黄泉を押さえ込む力のことだろう。
つまり力を押さえ込まれては困るようなことを、影狼丸や黄泉はしようとしている。

「高天原をどうするつもりですか…!このままでは世界の均衡が…!」

柵を握る愁麗を見つめたまま、影狼丸は何も返さなかった。
沈黙を破るかのように、影狼丸は立ち上がる。愁麗が座ったまま見上げると、影狼丸の元に別の黄泉が二人現れた。
同じく人型をしている。影狼丸と同じ赤い瞳の黄泉と、小柄な翡翠色の瞳の黄泉。
二人は影狼丸に頷き、愁麗の向かいの檻に闇を投げ入れた。

「……ッ…?!」

牢獄に投げ入れられた闇から出てきたものに、愁麗は思わず息を止める。
闇から現れたのは、高天原の防衛軍の隊員達だった。全員、死んでいる。急に目の前に現れた神達の死体に、愁麗は再び柵から離れた。
影狼丸とは別の赤い瞳の黄泉は、その様子が面白いのか、怖がらせるように柵に掴み掛かる。

「……っ…」

恐怖に肩を竦める愁麗を見た影狼丸は、まるで「止めろ」と言うように、柵を握る黄泉を押し退けた。
そして愁麗を見下ろし、影狼丸は闇を浴びせる。
しまった、そう思った時はもう遅かった。
あの夜と同じ。
浴びせられた闇に飲まれるように意識が遠ざかっていく。

倒れ込んだ愁麗を見、影狼丸はゆっくりと死体の山に近づいていった。



[ 41/171 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -