4


真っ暗な闇の中から、意識が引き戻される。まるで引っ張られるような感覚に陥りながら、愁麗は目覚めた。ぼやける視界には、見たことのない天井。ふと視線を右へ運べば、牢獄のような檻。
ハッと目を見開き、身を起こす。
身体の動かしにくさから、何日か眠り続けていたことを思い知る。

愁麗は辺りをゆっくり見渡した。牢獄のような、ではない。そこは間違いなく牢獄だった。
正方形の何もない一室。黒い壁には穴や窓もなく、唯一向こう側が見渡せる檻の柵もまた黒い。
柵を掴み、外を伺う。ここ以外にもいくつか牢屋が続いていた。しかし、愁麗以外は誰もいないようだった。向かいの柵との間は、廊下ではなく砂だ。ここは地下なのだろうかと眉を側める。

「私は一体…」

気を失う直前に見たもの。
人の形をした闇。赤い瞳以外が闇だったそれに、確か襲われたのだ。

「あれは黄泉だった…じゃあ、ここは…!」

顔を上げた瞬間、目の前に立っていたものに愁麗は瞬間的に息を飲んだ。牢の前に立ち、真っすぐ愁麗を見つめているのは、間違いない、あの夜見た赤い瞳の黄泉だった。
柵から離れ、震える足でふらふらと後退る。黄泉はただじっと見ているだけだ。否、言葉を話せないのだから、見ていることしか出来ないのだろう。
生唾を飲み、意を決して愁麗は口を開いた。

「貴方は、誰ですか…」

問い掛けても答えが返って来るはずはない。口を持たないのだから。でも聞こえているなら、何か反応してくるかもしれない…愁麗はそう思った。
案の定、黄泉は何も返してこない。
じっと見つめるだけの黄泉を、愁麗もじっと見つめ続けた。逸らしてはならない気がしたのだ。

すると、立っていた黄泉が姿勢を屈める。その場にしゃがみ込み、砂をなぞるように指を動かしていた。
愁麗は目を見開き、ゆっくりと柵に近づく。
黄泉は、砂地に文字を書いていた。
言葉を話すことは出来ないが、どうやらこの黄泉は文字を理解出来るらしい。

「かげ…ろう、まる?」

影狼丸。
砂にはそう書かれていた。読みを確かめるように見つめると、一度だけ頷いた。
影狼丸ということは、性別を付けるなら男だ。

「貴方の名前ですか?」

問い掛けると、影狼丸はまた頷いた。名を持つ黄泉…かつては知能の高い妖だったのだろう。

「何故…私をここに…?」



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