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「何か…意味があるんだろうな」

サイは顎に手を添えて呟く。
戦った時のことを思い出し、燕志は眉を潜める。

「絢鷹の方がどうだったかは分からねぇが、いろはって奴は話せたことに…肉体を手に入れたことに喜びを感じてたぜ。今まで、話すことが出来なかったとな」

「黄泉には口があらへんからな…他人に憑いて口を借りな喋られへん」

「肉体が欲しいのか…自分だけの」

サイの考えに賛同するように、燕志と絢鷹は頷いた。

「出雲や山茶花ちゃんに一度取り憑いた。けど、生きた者に憑くっちゅーんは案外不便やったんかもしれん」

山茶花や出雲のように、魂の強い者には、特に憑きにくいのかもしれないと絢鷹は言う。

「いろはは不便だっつってたな。相手の魂を押さえ付けるのに苦労してるみたいだった」

「サザンカさんも、途中で意識を取り戻した。黄泉にそんだけ反発したってことだろ。…だったら、黄泉からしたら面倒な話かもな」

口々に思うことを話していく内に、やがて部屋にいる全員にある可能性が浮かんだ。

「…まさか、死体を使う気か…?」

死体ならば、押さえ付けなければならない相手の魂がない。死体を器にすれば、黄泉は自分の思うがままに、自由に行動出来るのかもしれない。
サイ達の頭に浮かんだ可能性とは、そういうことだった。

「死体に憑く…か、もし本当にそうだとしたら、奴らが死体を持ち帰ったことにも合点がいく」

「肉体を得たら…益々何するか分からん」

燕志と絢鷹は頷き合い、立ち上がる。

「この事は天照と軍の総隊長に伝える。仮説に過ぎないが、知っておいて損はない情報だ」

「サイちょん達は、ここでしばらく休んどき。…二人を頼むわ」

山茶花と出雲を交互に見下ろし、絢鷹は微笑む。
サイが頷くと、燕志と絢鷹は眠る二人を起こさないよう静かに部屋を出て行った。

「何が目的なんだろうな…」

黄泉がしたい事の真意は、肉体を手に入れただけでは終わりそうにない。
そう含みを込めて呟かれた焔伽の言葉に、サイ達は分からない、と息を吐いた。
隊長格が憑かれる程の強力な黄泉。他にもそんな強い黄泉がいくら潜んでいるか分からないという現実に、室内に緊張感が走る。

「でもさぁ、肉体手に入れてくれた方が楽かもよ?少なくとも、憑かれる心配は無くなる訳じゃん。後は倒せばいいだけだし」

影熊はいつもと変わらない態度で、そんなに難しく考えることじゃないと欠伸をする。
そんな様子に綺羅は呆れたとばかりに笑い、サイを見る。

「まぁ…一理あるな。何にしろ、今は目の前のことに集中していこう」

「ああ」

サイは頷き、部屋から空を見上げる。茜色に色付く空の向こうは、どす黒い闇に覆われていた。
襲い来る黄泉を連想させるような重い空に、静かに左目を細めた。



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