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出雲を連れて戻ってきた綺羅と影熊は、山茶花が眠る部屋の隣に出雲を寝かせていた。
黨雲や姫宮により、出雲の傷も治療され、今は眠っている。
無事に師を取り戻せたことに、焔伽と綺羅は安堵し一息着いていた。

日が傾き、バタバタしていた仲間達が少し落ち着きを取り戻した頃、屋敷に二人の客が訪れた。
一人は絢鷹、もう一人は燕志だ。
二人とも防衛軍の隊長であり、山茶花、出雲の奪還に動いていた。師に付き添っていた焔伽と綺羅は二人を見て会釈をする。部屋を仕切る襖は開け放たれ、山茶花と出雲が休む部屋はひとつになっていた。
絢鷹と燕志は、二人の命に別状はないと聞き、ほっと胸を撫で下ろす。

「良かった。黄泉に憑かれるっちゅーんは、精神的に強い痛手を伴うさかい、心配しとったんよ」

下手をすれば、例え肉体的に無事でも精神が死ぬことがあるという。
絢鷹は山茶花の隣に腰を下ろす。その寝顔が穏やかなことに目を細め、微笑む。

「自分の身体に、他の魂が入り込む…恐ろしい話や」

「…今回サザンカさんや…それに出雲さんに憑いた黄泉ってのは、異例の強さだったんすよね?」

焔伽は隣の絢鷹を見る。薄紫の瞳は静かに焔伽に向けられ、縦に頷かれた。

「あんな強力な黄泉、今まで出会ったことあらへんよ…なぁ燕志」

絢鷹が話を振ると、出雲の側に座っていた燕志は頷き、腕を組んだ。

「隊長格に就いてもう随分経つが、俺もあんな黄泉にゃ初めて会ったな。なんつーか…自我が強かったぜ」

出雲に憑いた黄泉は、その口と声を借りて言葉を話していた。

「いろは…黄泉はそう名乗りもした」

黄泉の名を聞いたことがある者は、高天原にはほとんどいない。黄泉に名前という概念があったことすら、燕志達隊長格も今回初めて知ったようだ。

「強い黄泉っていうんは、人型をしてんねん。中つ国でもそうやろ?」

焔伽は頷き、綺羅と影熊を見遣る。二人は妖だが、人間となんら変わらない姿をしている。

「私や、影熊もそうだが、知能の高い妖程その姿は人に近い」

黄泉は元々中つ国の妖だった者が、死んで魂だけになった存在である。
焔伽は納得した様子で、何度か小さく頷いた。

「つーことは、強い黄泉は、生前は中つ国で生きてた強い妖って訳だな」

「ま、そういうこったろーな。俺達は中つ国については詳しく知らねぇが、黄泉の生まれは全て中つ国だ。そこでの記憶や能力が、黄泉になった後も継がれてんのかもしれねぇ」



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