5


「話せるってのは、こんな楽しいもんだっけなァ」

黄泉は闇の姿をしている。目はあるが、口を持たない。器を手に入れてようやく"話す"ということが出来るのだ。

「今まで、言いたいことは山のようにあった…まぁ、だが…」

黄泉は綺羅達を眺めて笑みを浮かべ、屈んでいた姿勢を正す。

「今日はこれだけ覚えて帰んな」

「何だと…?」

怪訝な顔をする燕志に、黄泉は出雲の声で言う。

「いろは」

ゆっくりと、だがはっきり聞こえるように黄泉は口にした。

「いろは…だと?」

「俺様の名だァ!しっかり覚えとけよ神」

黄泉はそう言い残すと、出雲から抜けていく。出雲の身体から闇が溢れ、その闇は人型になった。黄泉は赤い瞳を三人に向け、そして、倒れる四番隊隊員に闇を浴びせる。息絶えた隊員だけに浴びせられた闇は、死体を吸い込んで消えていく。

「てめぇ!何しやがる!」

動きだした燕志の槍の一振りをかわし、いろはと名乗った黄泉は姿を眩ませた。
燕志はいろはが立っていた場所を睨んで舌打ちをし、負傷した隊員が無事かを確認する。
倒れ込む出雲に綺羅は駆け寄り、その身を起こした。

「出雲…!出雲しっかりしろ!」

軽く揺さぶると、出雲はゆっくりと目を開ける。浅い呼吸を繰り返し、綺羅を見て目を細める。

「綺羅、か…?」

「そうだ、迎えにきた」

出雲は驚いたとばかりに微笑む。中つ国に帰った綺羅が、高天原にいること。この陰の地にいること、すべてに驚いているようだった。
だが、やがて理解したように頷くと、静かに目を閉じた。
憑かれている間に精神も肉体も疲労し、負傷している。呼吸をしていることを確認すると、綺羅は出雲をおぶった。

「大丈夫なの?その出雲って人」

「ああ」

覗き込む影熊に綺羅は頷き、燕志に近づく。怪我人を二人抱える燕志は、さらにもう一人を担ぎ上げようとした。だが、流石に両腕に大人を抱えた状態では持ち上げられない。その様子を眺めていた影熊は、燕志の隣にしゃがむ。

「……。手伝おうか?」

「…!…ああ、頼む」

燕志は微笑み、最後の一人を影熊に任せた。影熊は隊員を担ぎ、立ち上がる。

「怪我人四人も担いで帰ったら、驚かれるだろうね」

三人は冗談混じりに笑い合い、居住区へ戻り始めた。



[ 36/171 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -