3


それから二人は西へ進み、ごつごつとした岩場に足を踏み入れた。綺羅や影熊にとって、こういった場所は草地よりも心地が良い。
綺羅の故郷である修羅族の里は渓谷にあるし、影熊も生まれは岩山だったらしい。
岩場を歩き慣れている二人は、足場の悪い道を軽々と進んでいく。
やがて、影熊がふと足を止めた。

「どうした」

「……人の声が聞こえる」

熊…獣の妖である影熊は耳が良い。微かな人の声を拾ったようだ。この陰の地に人などそうそういないはず。
師か、他の行方不明者である可能性が高い。二人は頷き合い、影熊の耳を頼りに走り出した。
岩に飛び乗り、次の岩へ飛び移る。狭い割れ目を通り抜け、視界が開けた先の光景に綺羅は目を見開いた。

退紅色の、緩くひとつに束ねられた髪。青い目。間違いなくそれは師の姿だった。

「綺羅、あれが師匠?」

「ああ…間違いない、出雲だ」

綺羅が駆け寄ろうとした瞬間、稲妻が地を走る。バリバリと音を立て、稲妻は真っすぐに出雲へと向かった。

「稲妻…?!」

空に雲ひとつないこの場所に何故…と、綺羅は稲妻が走ってきた方を振り返る。
出雲は稲妻を避け、綺羅と同じく稲妻の先を見つめていた。
その先には、槍を持った男が立っている。
黒鳶色の髪。前髪を後ろへ流し、肩下くらいの髪は長さがバラバラだ。顔に大きな傷痕のある男は、獅子のような鋭い眼差しを出雲へ向けていた。

「お前ら、援軍かぁ?」

男は出雲から視線を逸らさないまま、綺羅達に問い掛けた。

「ああ、お主はもしや…防衛軍四番隊の…?」

四番隊が出雲の捜索に当たっていると言っていた。
それを思い出しながら言うと、男はニッと笑みを浮かべ頷いた。

「ああ、俺は四番隊隊長の燕志(えんじ)だ」

「私は綺羅、こちらは影熊だ。出雲は…私の師なのだ」

師と聞いて、燕志は初めて二人を見た。そして、成る程…と頷くと、出雲に視線を戻す。

「出雲さんは今、黄泉に憑かれちまってんだ。だからあれは、出雲さんであって出雲さんじゃあねぇ」

「憑かれただと…?!」

出雲らしくもない。
綺羅は驚き、燕志と対峙する出雲を見つめる。
姿こそ出雲だが、漂う気配にはなにか違和感がある。
岩の上で出雲はクス、と笑い、目を細める。

「何だァ?お前らもこいつの知り合いかァ?」

出雲の声を借りて話すのは、出雲に憑いている黄泉だろう。
興味深気に綺羅達を見つめ、舌なめずりをする。

「まぁた可愛いネコが来たなぁオイ」

「なに…?」

眉を潜める綺羅の隣に、燕志が並ぶ。

「ま、見ての通り、ちっとやりにくい黄泉だぜアイツは」



[ 34/171 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -