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「早く…早く頼む!」
汗を浮かべ、肩で息をしながら、焔伽は医師が来るのを待つ。
「焔伽!こっちへ!」
屋敷の方から姫宮が駆け寄ってくる。焔伽は頷き、屋敷へ走った。
「山茶花をここへ寝かせて下さい!」
屋敷に入ってすぐの縁側が見える部屋に、布団が用意されている。傍らには、黨雲が待機していた。
焔伽は頷き、ゆっくり山茶花を寝かせる。
黨雲は直ぐに傷を見、傷を塞ぎ始める。同時に、刺さったままの華斬をゆっくりと抜いていく。
「ッ、?!ァア…ッ!」
激しい痛みにより意識を取り戻した山茶花は手足を動かして暴れる。姫宮が足を押さえ、焔伽は腕を押さえた。
「ア…ッ、ァ…っく…!」
斬られるような痛みに顔をしかめる山茶花の腕を掴む手を、焔伽は握り変え、山茶花の手に絡める。
「あと少しだ…頑張れ…」
あやすように手を握り、黨雲の手元を見つめる。
「……よし…抜けた」
刺さっていた刀を引き抜き、黨雲は華斬を脇に置いた。
焔伽は息を吐き、山茶花に視線を戻す。
しかし、山茶花は目を閉じて動かない。
焔伽は慌てて首を触り脈を確認した。まだ脈はある。
「大丈夫、気を失っただけだ」
傷を塞ぎながら、黨雲は安心させるように頷いた。姫宮は黨雲の横で薬を調合し、時折黨雲に渡している。黨雲は薬を自分の術に溶かし、山茶花に使っている。
二人の息はぴったりだった。その確かな腕に、山茶花は助かるという確信と安堵感が生まれる。
姫宮は手を休め、焔伽に歩み寄る。
「焔伽、貴方も傷だらけです。手当てをしましょう」
「いや、俺は…」
山茶花の側にいたいという顔をする焔伽を見つめ、姫宮は首を振る。
「ここで傷だらけのまま目覚めを待つのが、貴方のするべきことですか?」
強い口調で言う姫宮には、仲間を助けたいという想いが現れている。
焔伽は頷き、山茶花の側を離れ、縁側に座る。
姫宮が傷のある部分に、次々と治癒術を施していく。三年前は一カ所の傷を両手で治癒していたが、今は片手ずつ別の場所の傷を癒している。
「姫ちゃん、すげぇな…」
「私も、変わらないままじゃありませんよ」
微笑みながら、休めることなく術をかける。片手では、濡らした手ぬぐいで焔伽の汗を拭っていく。
「悪ぃな、自分で…」
「私のするべきことは、戦いから戻った貴方達を癒すことです。気にせず楽にしていて下さい」
それを聞いた焔伽は微笑み、言われたまま姫宮に身を任せた。
山茶花に憑いた黄泉は、死んではいない。放っておけば、また誰かに取り憑く。同じことが起きる。
翡翠の瞳を思い出し、固く目を閉じた。
「…終わりました」
「こちらも、無事終了だ」
焔伽は姫宮と黨雲に向き直り、頭を下げる。
「ありがとう…!」
黨雲と姫宮は微笑み合い、すぐに次の患者の元へと向かった。
傍らに座り、山茶花を見つめる。呼吸も安定し、表情も穏やかだ。
それを確認して初めて、焔伽の肩の力が抜けた。
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