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山茶花の身体から漆黒の闇が溢れ出し、人型のそれは、山茶花が刺された場所と同じ所を押さえている。小柄な影。黄泉にもし性別があるとすれば女。あるいは子供のようだった。
翡翠の瞳の黄泉は、焔伽を睨む。口が利けるなら、恨み言を漏らしそうな、そんな憎しみを込めた目。
「てめぇのことは忘れねぇぞ」
鋭く睨む焔伽から顔を逸らした黄泉は、周りに倒れる隊員に闇を浴びせる。
全員ではなく、死んだ者だけを選んでいるようだった。黒い闇を浴びた隊員は、吸い込まれたように姿を消していく。
「貴様何をして…!」
黄泉に斬り掛かった茶々の一撃をかわし、黄泉はそのまま姿を眩ませた。
「…サザンカさん…!」
力無く凭れかかる山茶花を仰向けに寝かせ、膝に半身を乗せる。
細められた目を焔伽に向け、何かを話そうと震える唇を動かすが、溢れるのは声ではなく血だった。
「喋るな…、すぐ、助けてやるから…絶対死なせねぇから…!」
顔にかかる髪を避け、両頬を包み額を合わせる。眉間に深くしわを刻み、固く目を閉じる焔伽の想いを感じたのか、一瞬笑みを浮かべ、そのまま目を閉じた。
「サザンカさん…サザンカ!」
声をかけても返事はない。
まだ息は止まっていないが、このまま出血し続けるとまずい。
焔伽は山茶花の傷を見る。急所は避けて刺したが、刺さったままの華斬を抜けば、夥しい量の血が溢れるだろう。
刀が刺さったまま、焔伽は山茶花を抱き上げる。
だが、戻ろうとする焔伽の前に、また何体もの黄泉が現れた。
焦りと苛立ちに顔をしかめ、黄泉を睨む。
「てめぇらに構ってる時間は…」
「こいつらの相手はウチらがする。君は山茶花ちゃんを早く連れて行き」
「生き残った隊員は私達が連れ帰る。だからお前は…隊長を助けてくれ…」
クナイの穴に指を入れ、回しながら歩み寄る絢鷹と、構える茶々。焔伽と山茶花を守るように立ち、黄泉に向かっていく。
「すまねぇ…頼んだ!」
二人に黄泉の相手を任せ、焔伽は居住区へ向かい走り出した。
来た道を、来た時の何倍もの速さで走り抜ける。時折黄泉が足元に現れたが、具現化するまでの間に焔伽が駆け抜ける方が速い。
元々足の速い焔伽に黄泉が追いつける訳もなく、ただ背を見送るだけだった。
やがて見えてきた朱雀門に焔伽は駆け込む。
抱えている山茶花を見て、隊員は慌ただしく医師を呼びに向かった。
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