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ぶつけ合う刀の力は弱まっていないが、山茶花は焔伽を凝視している。その目には彼女の意思が感じられた。山茶花は信じられないという顔で、小さく呟く。

「…焔、伽…?」

「長いこと待たせてごめんな…サザンカさん…」

大きく開かれた目に涙が溢れ、それはぽろぽろと零れ落ちる。

「焔伽…」

苦しげに涙声で呼ぶ山茶花の目には、色んな想いが映っていた。
会いたかった、寂しかった、苦しい…助けて…。
焔伽には様々な想いを感じ取れたが、一番強く感じた想いは。

「なんで今…来たんだ…!」

焔伽を弾き返し、山茶花は刀を構える。

「私は、黄泉に……、ッ…あ…!」

「サザンカさん?!」

苦しげに呻き、頭を押さえる。
近づこうとした焔伽に、風刃が飛ばされた。刀で何とか受け止め、焔伽は間合いをとる。

「身体の…制御が、効かない…!私に近づくな!」

山茶花は刀を下ろそうとしているが、黄泉がそうさせない。ふたつの意思が反発し合い、刀を持つ腕は震えていた。

「この腕はお前を殺そうとする…!…逃げ…っ」

「逃げねぇよ…」

焔伽は刀を構え、真っ直ぐに山茶花を見つめ、目を細める。

「お前を置いて、逃げる訳ねぇだろ!」

「やめ…ろ…っやだ…、いやぁあ!!」

「?!」

悲痛に叫ばれた直後、山茶花の背後に今までとは比べものにならない程の風が巻き起こる。山茶花の風の力を黄泉が無理矢理使っているのだろう。
台風とも竜巻ともとれるそれは、辺り一面の砂を巻き上げ、焔伽を襲った。

「っ!」

かわすことの出来ない規模。
刀を盾に身を守るが、幾千もの鋭い刃は肌を切り裂いていく。顔、手足…あちこちに傷が作られ、血が飛び散る。顔をしかめ痛みに耐える焔伽の視界に影が映ったその直後、身体が飛ばされ、風の渦から解放される。
倒れた焔伽に覆いかぶさるように斬り込んできたのは山茶花だ。
首の真横に刃を突き付けられている。

焔伽は笑みを浮かべ、ふぅ…と息を吐く。

「やっぱ勝てねぇなぁ」

止め処なく落ちる涙が焔伽の頬を濡らす。

「…殺さねぇの?」

問い掛けると、山茶花の腕が震える。斬ろうとする黄泉と、止める山茶花。

「、いやだ…焔伽、頼むからこれ以上…」

山茶花の目に、一番強い想いが映し出された。
たった一言、殺せと。
首を斬ろうとする腕を止める山茶花の頭に左手を回し、そっと抱き寄せる。

「今…楽にしてやる」

耳元で小さく呟くと、山茶花が目を細めたのを感じた。

「…ごめんな」

焔伽は右手を動かし、持っていた刀…華斬を、山茶花に突き刺した。傷口から血が広がり、着物を染めていく。腹に刺さった刃は背中から血塗られた刀身を覗かせている。



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