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刀をクナイで弾き、菖蒲色の癖のある長髪を揺らし、忍装束の男は間合いをとる。
「なぁ、もう止めようや山茶花ちゃん!ウチらがやり合っても意味あらへんやろ!」
長時間戦っている為か、男は息が上がり、所々かすり傷も出来ている。砂埃の向こうの影に問い掛けるも、返事はない。
強い殺気は収まらず、やれやれと肩を竦める。
「防衛軍一の剣士とサシで戦うって…ほんまもう鬼畜やなぁ」
「絢鷹様!!」
「ん?」
絢鷹と呼ばれたその男は、声の方に振り返る。見れば走り寄ってくるのは、一番隊副隊長の茶々と、見かけない顔の男。
「ちぃちゃん…!どしたん、陣はええの?」
「陣は部下に任せて来ました。二番隊隊長の貴方に、これ以上うちの隊長をお任せする訳には…」
申し訳ないと頭を下げる茶々の頭に、絢鷹はぽんぽんと二回軽く手を置く。
「そんなん気にせんでいいよ。とりあえず、見つけんのは見つけたわ、けど…」
砂埃が晴れ、絢鷹が対峙していた人物が姿を表す。二人から少し離れていた焔伽は、目を見開いた。
長い髪、桜色の瞳、そして感じる風の気配…見間違う筈もない、かつての師。
「サザンカさん……」
殺気を漂わせる山茶花は、絢鷹と茶々に向かい鎌鼬を飛ばす。回避して武器を構え、絢鷹は苦笑する。
「見ての通り、ウチらの言葉は届いてへん。多分、誰なんかも分かってへんやろなぁ」
「そんな…何故です!」
「…あの子は今、黄泉に憑かれてるんよ」
「な…!」
茶々は山茶花を凝視する。
その目に光はなく、山茶花の意思を感じない。よく探れば、禍禍しい闇の気配が溢れている。
「周り見てみ、あの子がやった」
山茶花の周りには、共に調査に出向いた隊員達が倒れていた。まだ息のある者もいれば、事切れている者もいる。
茶々はレイピアと呼ばれる特殊な刀を抜き、構えた。
「隊長…!」
「待ってくれ!」
「!…焔伽…」
掛けられた声に茶々は振り向く。
焔伽の目は山茶花を捕らえたままだ。
「俺一人にやらせてくれ」
「お前、隊長の強さを分かってるのか!」
一人で立ち向かえる相手ではないと茶々は首を振る。
「知ってるさ。何回戦っても勝てやしなかった。……けど、あの人は俺が止めたい……頼む」
茶々も絢鷹も、しばらく焔伽を見つめていたが、やがて頷き合い、山茶花から離れた。
焔伽は両腰の刀を抜く。右手に握るのは、山茶花から預かった名刀、華斬だ。
武器を構えた焔伽に標的を変えた山茶花も、刀を構える。
「…久しぶりだな、サザンカさん」
なにも返して来ず、なにも映さない瞳。
「とんでもねぇ再会だが…久しぶりに、やりますか」
笑みを浮かべた焔伽に、山茶花は斬り掛かった。
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