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「隊長の弟子になれるなど、どれ程優遇されたことか」

「サザンカさん他に弟子いねぇのか」

隊員達にも、自分と同じように修業してやっているのだと思っていた焔伽は、意外だと片眉を上げた。茶々は不機嫌な表情のまま、歩き続ける。

「なりたい者は山のようにいる…だが隊長は今まで一度も弟子を受け入れたことはない。お前だけだ。神でもない、ただの人間を…」

茶々の言葉を聞いた焔伽は、何故彼女が焔伽に対し冷たい態度をとるのか察しがついた。
理由は恐らく、嫉妬だ。
それを知っても、内心嬉しく思っていることは変わらない。

「俺だけ…か」

嬉しそうに呟く焔伽を見て、茶々はふん、と顔を背ける。

「サザンカさん、俺のこと覚えてっかな」

三年前にたった一ヶ月間顔を合わせただけの焔伽など、忙しい山茶花は覚えているのだろうか。
顔を背けていた茶々は弾かれたように焔伽に振り向く。

「馬鹿言え!隊長は…どれだけ…!」

茶々の目が悔しげに細められる。





『…隊長、折れた刀など毎夜お眺めになってどうするのですか。使えぬもの…ですよね』

『ん?ああ、そうだなぁ。確かに刀としてはこいつは何の役にも立たねぇな』

『では何故、そのように大事そうに…?』

『これは、ある馬鹿からの預かりもんなんだよ。会いに来るから、その約束の印に持ってろ…なんて偉そうなこと言って』

『……待っているのですか』

『ああ、もう随分経つが…馬鹿正直な奴だからな。いつか…絶対来る』





「隊長は、お前を忘れた日などなかった。ずっと待ってらっしゃった」

時折、とても寂しそうな目をしながら。

山茶花を思い、茶々が鋭く睨んだ先の焔伽の瞳が微かに揺れる。

「……そっか、寂しい思いさせちまったな」

「隊長に会ったら…ちゃんと、謝れよ!」

「ああ、何回でもな。その為にも、早く見つけようぜ!」

歩調を速めた焔伽を、茶々も追う。
どれ程歩いてきたのかは分からない。同じ景色が延々と続く陰の世界はとても迷いやすい。

ひたすら荒野を歩く二人に向かって、突然前方から突風が吹いてくる。
焔伽はその風に何かを感じ、走り出した。

「…お前急に、どうした!」

「今の風…サザンカさんの風だ!同じ気配を感じた!」

「何…?!」

風の気配を感じることが出来る者など、山茶花以外に知らない。
茶々は驚き、焔伽を見上げる。
真っ直ぐに前を向くこの男は確かに、類い稀なる才を持っていた。

やがて二人の目の前に、激しい砂埃が巻き上がる。立ち止まりじっと目を凝らすと、中で動く影が二つ。何者かが争っているようだ。

「あれは…!」

影に向かい走り出した茶々を、焔伽も追った。



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