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天照に用意された屋敷は、サイ達全員がひとりひと部屋を使っても余りある広さだった。
ここは元々宴会用に建てられた屋敷らしく、どの部屋も広い。
庭に池もある、贅沢な屋敷だった。

「こう広いとどこ使っていいのかわかんないね」

影熊は頭の後ろで両手を組み、あちこちを見渡している。

「影熊、お主は私と同室で構わないな」

「ん、いいよー」

相談した結果、少し広めの部屋に割り当てられた者は誰かと相部屋にするという結論になった。
正直なところ、あまりバラけているより出来るだけ固まっていた方が安心だということが一番の理由だ。
高天原はもはや、安全な場所ではなくなっている。いつ何処で何が起きても不思議ではない。
サイとアカネも同室に決め、焔伽、姫宮、雫鬼はひと部屋ずつとなった。

屋敷に上がり、決めた部屋に向かう。

「皆、気をつけろよ。焔伽と綺羅、影熊は特に」

これからすぐに黄泉の元へと出向く三人に振り返り、念を押す。敵の力は未知数だ。

「私は影熊と同行するからそう心配いらぬ。焔伽は…」

「俺なら大丈夫だって!」

出て行く門が異なる綺羅達と焔伽は、共に向かう訳ではない。単身で向かう焔伽の方が心配だと綺羅は眉を潜める。

「俺も行こうか?」

サイが名乗り出ると、焔伽は首を振った。

「主戦力があんま一気にここを離れるのは良くねぇだろ。なんかあった時に守る奴がいなくなる。大丈夫だ、ちゃんと帰って来るからよ」

「……本当だな?」

「おう!」

自信満々に笑う焔伽を信じ、サイは納得した。
三人に頷き、サイ達はそれぞれの部屋に入っていく。
廊下に残された三人も、互いの武運を祈りながら、綺羅と影熊は青龍門、焔伽は朱雀門へと向かって行った。
東西南北で言う東と南。
綺羅達は東へ、焔伽は南へ分かれて歩いていく。

ひとりになった焔伽から、仲間に向けていた笑顔が消える。左腰に差した華斬に触れ、複雑な思いを噛み締めた。
あの師ならきっと大丈夫だ。そう信じてはいても、最悪の展開が脳裏を過ぎってしまう。

「…無事でいてくれよ…」

やがて焔伽の青い瞳に、紅い門が写し出される。朱雀門だ。
門番である朱雀がいない、一番護りが手薄になっている門。だからなのか、門の周辺には防衛軍らしき神々が多く待機していた。



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