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高天原に足を着けたサイ達は、驚きに言葉を失った。
以前訪れた時の煌びやかで優雅な雰囲気は、そこにはない。
遠く陰の世界の空は暗雲に覆われ、高天原を覆い隠そうとしているようだ。
目に入る神々はあちこちに駆け回り、戦える者は皆武器を手にしていた。
怪我人を運ぶ者、何かを叫んでいる者…その表情には高天原の民特有の余裕はない。
つい三ヶ月前までは平和で穏やかだった故郷の変わりように、アカネは愕然としている。

「これ…やっぱりただ事じゃない。母さんに会いに行こう!」

アカネの母親、天照は高天原の主神である太陽神だ。高天原のことは、天照に聞くのが一番早い。
小走りに先を行くアカネを追って、サイ達も宮殿に入った。

太陽の宮を進み、どんどん部屋を過ぎていく。この複雑な道も、三年間ここにいたアカネは迷わずに進めるようになっていた。
やがて見覚えのある巨大な扉の前に立ち、アカネはゆっくり押し開けた。
天照がいつもいる広間だ。サイ達が三年前、よく集まった場所でもある。入ってきたアカネとサイ達を見るや否や、上座に座っていた天照は立ち上がる。
その側には月読も立っていた。
「火明…!戻ったのですね!それに…そなた達も…」

懐かしい顔ぶれをざっと見渡し、天照はアカネに視線を戻す。いつも穏やかで落ち着いている天照が、ひどく険しい表情だ。彼女があれ程焦っている姿をサイ達は見たことはなかった。

天照は自分を落ち着かせるように座り直し、サイ達に近くに来るよう合図する。
天照を見上げる形になったサイ達は、彼女の言葉を待つ。
こちらから話さなくとも、天照には全て分かっているはずだ。

「火明、よく戻りました。そして…そなたらも、良く来てくれましたね」

三年前とは面持ちの違うサイ達を見、天照はその月日を感じる。神々にとっては三年など何ら変わらないのと同じ。だがサイ達人間や妖にとっては、三年はとても大きなものだと、心身共に成長した姿を見て思った。

「高天原は今…混乱状態です」

「そのようだな…外も大変な騒ぎだった」

サイが言うと、天照は苦しげに目を伏せ、頷く。

「愁麗が…黄泉に攫われました。黄泉と神々の均衡を保っていた彼女が攫われ、今…高天原は非常に乱れています」

「黄泉の力を抑え込む者がいなくなり、黄泉の力は増している。この居住区に攻め入ろうと襲撃してきたのだ」

天照に続けるように、月読は言う。口調も態度も、月読らしく冷静で落ち着いたものだったが、眉間には深いしわが刻まれている。


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