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「姫宮か…どうした?」

「少し、お話したくなりまして」

微笑む姫宮の先に立つのは、薄紫の髪、青い瞳の男。アカネには、彼に覚えがあった。

「…雫鬼…?」

アカネが口にすると、名を呼ばれた男…雫鬼はアカネに視線を移す。ほんの一瞬、その瞳に驚きを映したが、それはすぐに消える。

「アカネ…か。久しいな」

「覚えてたんだ」

「お前のように強烈に印象に残る者はそういないからな」

「え?!あたしそんな奇怪なことしたっけ?」

顎に手を当てて考えるアカネを見て姫宮は笑い、再び雫鬼を見上げる。

「…今日は世間話という訳では、ないようだな」

「はい」

雫鬼は頷いた姫宮を家に招き入れる。未だ考えているアカネに目で合図し、アカネも家に入れると、静かに戸を閉めた。

「話とは何だ」

座って待っていた二人の向かいに胡座をかき、雫鬼は言う。

「実は、雫鬼さんにお願いがありまして…」

姫宮はアカネに目配せする。アカネは頷き、後を続けた。

「高天原…って、聞いたことある?」

「…ああ、神の住まう国のことだな」

雫鬼は何度か頷きながら、話に聞いたことくらいはあると言った。

「あたしの故郷であり、ひめや仲間達もお世話になった場所なの。そこが今、大変なことになってて…」

アカネは今起こっていることを、出来るだけ分かりやすく説明する。雫鬼は高天原に行ったことがない。唐突過ぎて申し訳ないと思いながら話していたが、雫鬼は真剣に耳を傾けてくれていた。

「…なるほど、何となくだが…話は分かった。だが何故それを俺に?」

「今、人手が足りないの。あたし達に力を貸して欲しいって、使いの人が来るくらいに」

「単刀直入に言うと、雫鬼さんにも力を貸して頂きたいんです。貴方なら頼りになる…そう思って、今日は来ました」

アカネも姫宮も、じっと答えを待つ。

「…しかし、俺は妖だ。神の国になど…」

「その点は大丈夫です、私達の仲間にも妖はいましたから」

「………」

「だめ、ですか?」

姫宮と雫鬼のやり取りを見ていたアカネには、既に勝敗が見えていた。三年前に犬神山を出ると言った姫宮を、あの夢告が止められなかった程、案外押しが強く、言い出したら聞かない性格なのだ。
根が優しい雫鬼が断ることは出来ないだろうと、アカネは雫鬼に目をやる。
雫鬼はしばらく考えた後、目を伏せ、頷いた。

「…仕方ない」



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