3


アカネは忘れかけていた事をハッと思い出し、机に肘を着いて身を乗り出す。

「ひめ、高天原が今、危ないの」

「…どういうことですか?」

先程までの和やかな空気が一転し、真剣な眼差しに変わったアカネに姫宮は眉を潜める。

「実は一週間前に愁麗が攫われたらしくて…。黄泉を抑える者がいなくなったせいで、黄泉が勢力を強めてきたみたいなの」

「愁麗が…?!」

会ったことはなくとも、姫宮も仲間達も愁麗のことは三年前から知っていた。覇王の恋人であり、高天原の均衡を司る女性だ。

「愁麗は、黄泉を抑えていたんですね…」

考える姫宮を見つめたまま、アカネは頷く。

「今朝、家に高天原から使者が来たの。あたしの…火明の助けが欲しいって。でも、それはあたしだけじゃなくて」

「私達の力も借りたい…ということですね」

「人手が足りないくらい、向こうは大変みたい。だから、ひめがもし来れるなら…一緒に来て力を貸して欲しいの」

高天原は今、黄泉に襲撃されている。ということは、必然的に戦いになり、怪我人も出てくる。
姫宮の脳裏に、怪我人に駆け回る黨雲の姿が映った。

「分かりました、私でお力になれるのならば」

快く引き受けてくれたことに安心したのか、アカネは微笑み、身を引いて座り直した。

「サイが今、焔伽と綺羅に会いに行ってるんだ」

「一人でも多く、頼れる者が必要なのですね」

小さく頷くアカネを視界の端に捕らえつつ、姫宮は少し俯いて考えた。アカネが黙ってその様子を見つめていると、姫宮はアカネに目を合わせる。

「一人、声を掛けたい方がいます」

「ほんと…!?」

「とても頼れる方です。きっと、力を貸してくれると思います」

そう言って立ち上がった姫宮に続き、アカネも立つ。
姫宮はアカネについて来るように言い、屋敷の出口へと向かった。
犬神山には犬神以外の妖がいない為、比較的安全だ。武器を預けたまま、靴を履いて屋敷を出た。
山を下りていく姫宮の横に並び、アカネは首を傾げる。

「どこ行くの?」

「もうすぐです」

答えた直後姫宮が指差した先に、一軒の家が建っていた。アカネとサイが住む家のような、庶民的なものだ。
前に来た時はこんな家はなかったとアカネがじっと見つめている横で、姫宮は軽く戸を叩いた。

「私です、入っても良いですか?」

姫宮は相変わらず、人を安心させるような、優しくて透き通った声だ。ぼんやりそんなことを思っていると、戸が開けられた。



[ 17/171 ]

[*prev] [next#]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -