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鏡を使い、犬神山へやってきたアカネは、目の前の屋敷を見上げる。
前にここを訪れた時は雪が積もっていたが、今は緑の草が足元に広がっていた。屋敷の外観をまともに見たのが初めてのアカネは、まるで高天原の屋敷のようだと思った。
朱と白という神聖な色を使って塗られた柱や屋根。美しい彫刻が施された壁や天井。

「ほんと、高天原みたい」

しばらくあちこちを眺めていると、中から人がやって来た。銀色の髪…犬神だ。犬神は警戒心が非常に強い。下手に踏み込めば殺される危険のある妖だ。
険しい表情で近付いてきたその犬神に、アカネは見覚えがあった。

「ん?」

間近まで来た犬神を目を細めてまじまじと見つめていると、顔をしかめ苛ついた表情の犬神はため息をつく。
その様子でアカネはピンと来たのか、指差しながら声を上げた。

「あー!夢さん?!」

「不快な呼び方をするな」

「夢さーん!久しぶりー!元気だった?!相変わらずムスッとしてるねー」

話を全く聞かずにぺらぺらと喋るアカネの顎をぐっと持ち上げ、夢告は黙らせる。

「相変わらずうるさい娘だ。何しにきた」

「ひめ、いるでしょ?ちょっと用があるの」

顎を捕まれたままアカネは言い、にこにこと笑みを浮かべる。
夢告はしばらく考え、手を離し屋敷の中へ歩き出した。

「お前が姫宮様のかつての仲間だとはいえ、屋敷に入るなら武器を預からせてもらうぞ」

夢告が靴を脱いだ場所に、女中が駆け寄る。籠を抱え、アカネを待っていた。

「前来た時とぜーんぜん変わらないね」

三年前と全く同じ光景に、アカネは楽しくなったのか軽い足取りで歩み寄り、持っていた武器を全て女中に渡した。

「これでいい?」

両手を腰に当て夢告を見上げると、夢告は頷き、奥へと歩き出した。
前を歩く夢告の高く結ばれた髪。歩く度に揺れるそれはまるで尻尾のようだ。
夢告も真の姿は犬。そう思うと、つんけんした言動も何だか可愛く見えてくる。
夢告は無意識に笑っていたアカネに振り返り、睨むように見下ろした。

「何がおかしい」

「夢さんもわんちゃんなんだなーって。…あいたっ!」

叩かれた頭を摩りながら、口を尖らせる。

「叩くことないじゃん」

「くだらんことを言うからだ」

「夢さんの意地悪ー」

「うるさい。……姫宮様、客人をお連れしました」

アカネに一発睨みを効かせ、夢告は扉の前で一言声をかけた。
中から聞こえた声に、アカネが頭が痛むのも忘れた時、扉が開かれた。



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