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客人は女性だったが、サイが知っている者ではなかった。
明らかに村人でもない。
着ているものの特徴は、まるで三年前に訪れた高天原の住人のようだ。
緋褪色の髪は、三つ編みの下で二つに分けて結ばれている。
右側は短く、左側が長い、変わった髪型だ。
袴を履き、先へ向かうにつれ細くなっている見たことのない形の刀を腰に下げるその女性は、一般人ではないだろう。

「お初にお目にかかります。私、茶々と申します」

「ああ…サイだ。こっちは…」

「存じております、火明命様とは面識がありますので」

凛と話す茶々の言葉にサイは驚く。アカネを火明と呼ぶのは、高天原の神以外にいない。

「茶々、高天原の防衛軍の人なの。あたしもこの三年間で知り合ったんだけど…」

高天原の神が中つ国に降りてくることは滅多にない。神の力を持ったままでは、降りることが出来ないからだ。
アカネも中つ国に戻って来る時、神の力を封印してきている。
だが目の前の茶々は、微かに神の気配がした。力を封じてはいないようだ。

「本来、このような来訪は有り得ません。ですが…非常事態なのです、お許し下さい」

一度頭を下げた茶々は、顔を上げると先程にも増して真剣な顔つきになる。話を聞く前から、良くないことが起きたのだと察しがついた。

「高天原が…黄泉に襲撃されているのです」

「何…?!」

神の住む居住区を陽、四つの門の向こう側を黄泉の住む陰という。高天原はそうやって大きく分かれていた。

「本来、黄泉が居住区を襲うことなど出来ません。ですが、一週間前に監視者である愁麗が何者かに攫われ、黄泉の力が膨れ上がりました」

高天原は今、動ける神が総動員で黄泉と戦っている最中なのだという。

「単刀直入に申し上げます。火明様、高天原に戻り、お力をお貸し下さい…!」

茶々は焦りに表情が引き攣っている。一刻も早く戻り、高天原の為に戦いたいのだろう。
そのただならぬ様子を見た二人は、目配せする。

「分かった、戻るよ」

アカネの言葉を聞き、茶々はバッと顔を上げる。

「ありがとうございます…!」

茶々はそのままサイに視線を移す。彼女が言いたいことを察したサイは頷いた。

「俺も行こう」

「…あなた方の師も、懸命に戦っております。力になれそうな人がいるのであれば、出来るだけ人数を集めて頂けないでしょうか」

かつての師。
覇王を倒す旅の中で世話になった、多大な恩のある神々だ。サイは視線を泳がせ、やがて茶々を捕らえる。

「分かった。先に戻っていてくれ、後から行こう」

「詳しくは高天原にてお話しします。…では」

茶々は深く頭を下げる。
そして鏡をとり、高天原への道を開き、戻っていった。

「サイ…」

「ああ。また少し、忙しくなりそうだな」

笑みを浮かべながらアカネを見下ろすと、呆れたようにアカネも口許を上げる。
サイは空を見上げ、彼らを思う。
かつて共に旅をした、仲間達を。


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