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鳥の囀りが聞こえる。
爽やかな風が外から入り込み、それは夏の終わりの香りがした。それと共に、不思議な匂いが鼻腔をくすぐる。

「サイ、ねぇサーイ」

揺さぶられる思考。
サイは誰の仕業か分かっているが、目が開かない。

「ちょっとサイってば、朝ご飯出来たから起ーきーてー!」

「……んー……」

仕方なく無理矢理目を開けると、その寝ぼけた表情を見てアカネは腰に両手を当てる。

「やっと起きた!サイってほんと朝弱いよねー」

アカネはそう言い、台所に戻って行った。
俯せに寝ていたサイは、俯せのまま肘を着いて僅かに身を起こし、欠伸をする。

「…朝か……」

前髪を掻き上げ、ふぅ、と息を吐く。のろのろと起きて座り、脱いでいた着物を着る。
まだ落ちそうな瞼に鞭打って、手ぬぐいを持ち、サイは家の外に出た。裏の井戸へ向かい、水を引き上げ、その水で顔を洗う。
冷たい井戸水は、寝ぼけるサイを現実に引き戻した。

「冷た…」

サイは手ぬぐいで顔を拭き、家に戻る。
相変わらず不思議な匂いだ。夢にまで香ってくるとは、ある意味凄い。
サイは朝食を準備して座っているアカネの向かいに座る。

「おはよ、アカネ」

「おそよーサイ」

アカネは厭味っぽく言いながらサイを覗き込み、直ぐに笑う。

「冷めないうちに食べよ!頂きます」

「頂きます」

手を合わせ、箸を持つ。
焼き魚と味噌汁と白米。サイは味噌汁を手に取り、啜ってみる。不思議な匂いの元はこれなのだ。アカネは全く料理というものが出来ない。米を炊いたり魚を焼いたりは出来ても、少々手間が必要なものは苦手だった。
相変わらず何が入っているのかわからない、不思議な味だ。
まずくはない。
しかし正直美味しくも、ない。

「…アカネ、今日は何入れた?」

「今日?今日はねー、えーっと…」

指を折りながら説明された具材は、およそ味噌汁に入れるものではない。
料理の出来るサイは、何度かアカネに教えてやろうかと思っていた。
しかし本人が毎回あまりに頑張って作っている為、口を出すのも気の毒だと遠慮していたのだ。
だが、もういい加減料理を教えてやる必要があるな…と思いながら、不思議な味噌汁を飲んだ。


この世界、中つ国を支配していた覇王を倒して三年。
三ヶ月前にアカネが高天原から戻って来て以来、共に生活している。
祟り眼の呪いからも解放され、穏やかで平和な毎日だ。朝起きるのも、いつの間にかかなり時間がかかるようになってしまった。

二人が朝食を終えた調度その時、家の戸が二度叩かれた。
サイは黒い眼帯で右眼を覆う。アカネはそれを確認した後、戸を開けに行った。
祟り眼の呪いにより金色になった瞳。呪印はもう刻まれていないが、色までは元の赤には戻らなかった。
中つ国において金色の眼は古来より、災厄を招くと恐れられているのだ。
それ故にサイは、祟り眼が消えた今も眼帯を着けている。外すのはアカネや、かつての仲間の前くらいだった。

村の誰かが尋ねてきたのかと、サイも戸へ向かう。
開けた瞬間、家に戻ろうとしたアカネとぶつかりかけた。

「あ、サイ…!今呼ぼうとしたとこなの」

見下ろしたその表情が僅かに焦りを帯びていることに気付き、サイは首を傾げ、客に目をやった。



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