高天原、陽。
日はとうに落ち、辺りは暗闇に包まれている。
二番隊隊士が住まう忍屋敷に、音もなく動き回る影があった。
ひとつは男、ひとつは女。
影は仕掛けだらけの屋敷をするすると進み、とある部屋の縁側で静かに足を止める。
そして片膝を着き、障子の向こうに声をかけた。

「副隊長、やはり噂は本当のようです」

薄明かりの点いた室内の蝋燭が揺れたのが、障子越しにもわかった。長い髪をひとつに束ねた男は鼻まで隠れる覆面をしている。その男の言葉に続くように、隣にいた金髪の少女が口を開いた。

「隊長…絢鷹様は黄泉に拉致されたものと考えて間違いありません。軍の幹部格から得た情報ですので、確かです」

二番隊の隊長、絢鷹は一週間ほど前から行方が分からなくなっていた。
軍に問い詰めるも、絢鷹は神を裏切ったなどと信用出来ない返事ばかりが返ってきたが、忍の情報収集力は並ではない。
あらゆる方法で内々に探り、絢鷹が行方を眩ませる直前、黄泉と会っていたという情報を得た。

「隊長が裏切るなんて有り得ません!何か事件に巻き込まれたに決まってます…!恐らくは、その黄泉に、」

少女は尊敬する隊長を強く信じていた。
あれ程仲間思いな絢鷹が、軍を裏切ることは考えにくい。絢鷹程の手練れが拉致されたとは思えないが、そうだとしか考えられなかった。

明かりの揺れる室内で、明かり以外のものが動いた。
絹擦れの音が聞こえてくる。

「分かっている。俺もあの方が裏切ったとは思っていない…救出に向かう」

障子に影が近付き、閉じられていたそれは開かれた。
寝間着ではない。二番隊副隊長として動く為に、忍装束を纏っている。
副隊長の私室の前、膝を着く二人を見下ろし、暁は微笑んだ。

「九十九(つくも)、鈴鹿(すずか)、二番隊を頼んだぞ」

「副隊長…そんなお体で、本当にお一人で行かれるつもりですか…?!」

呪いの苦痛により、ずっと床に伏していた暁。
左目を覆う包帯は、相変わらず出血し続けている。
動き回れる状態ではない。薬を飲まねば生きていられない程の祟りを受けている彼が、ただ一人で陰に出向くと言うのだ。

「我らもお供させて下さい」

九十九の申し出に、暁は首を振る。

「ただでさえ隊長のいない状態。今俺が抜け、更にお前達までもが隊を抜ければ、纏める者がいなくなる」

二人の横を通り過ぎ、暁は庭に降りる。
襟巻きが冷たい夜風に舞った。

「どうかお気をつけて」

心配気な鈴鹿の声に微笑みを返し、暁は地を蹴った。




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