5
溢れる感情を口々に吐き出すリンカの手を、愁麗はそっと包む。
「気付いてあげられなくて…ごめんなさい…」
黄泉達がこんなに苦しんでいたことを、神々は知らなかった。
意志疎通が出来ないのだ、当然といえば当然だが、それだけでは済まされない。
リンカの涙は、仲間を思う清らかな涙だった。神々が思う凶悪な黄泉が、こんな涙を流せるだろうか。
「わたしは、貴女に出会えて良かったです。貴女の心を、黄泉の心を知ることが出来ました」
涙の止まったリンカは、愁麗の手を振り払うことなく真っ直ぐに見つめている。
「貴女方の幸せになれる道を、わたしは探したいです」
「……馬鹿みたい」
愁麗が微笑むと、リンカは視線を逸らし呟いた。
「アンタ一人が黄泉を分かったって、意味ないのよ」
「分かっています。けれど、わたしだけではありません。黄泉を理解しようとしている者は、他にもいます」
少しずつ輪を広げて、解決していくしかない。
その間も争いは続き、犠牲も出るだろう。
けれど。
「ほんの少しでも神を信じてもらえたなら、それは大きな一歩です」
リンカはしばらく黙り、床へと逸らしていた視線を愁麗に合わせた。
「…アンタは信じてもいいわ。でも、あたしのやることはこの先も変わらない。神々が本当にあたし達を認めるまではずっと」
「…はい、それで構いません」
今は、それでいい。
神にも黄泉にも太陽の当たる日は、いつかくるはずだ。
それを信じて、今は互いに堪えるしかない。
「…肩、治療させて下さい」
傷を負ってから時間の経ったそこは赤黒く血が固まりかけていた。もう肉体を得たのだ、放っておけば傷口が膿んで腐っていくこともある。
丁寧に治癒術をかける愁麗に、リンカは黙って身を任せていた。
そこにあった分厚い壁が、なくなったような気がする。
「な、何笑ってんのよ!」
いつの間にか笑みが零れていた愁麗を、リンカは睨む。
「いえ、嬉しいんです。貴女とこうして話せることが」
「…な…なに、それ。馬鹿じゃないの?」
ふんっ、と顔を背けたリンカにまたクスクスと笑う。
神に付けられた肩の傷は、神によって跡形もなく治療されていった。
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