広間を出た愁麗が向かったのは、リンカの部屋だった。
この空間がどんな形で、どういう仕組みで存在しているのかは分からないが、城や屋敷のように決まった道を行けば必ず目的の場所にたどり着く。
リンカの部屋への道は、愁麗も覚えていた。

息を切らしその部屋の扉を開け、中にいた少女を抱きしめる。
背を向けて座っていたリンカの背中から抱き着くように、愁麗はリンカを両腕で包んだ。
突然のことにリンカは何が起きたか理解出来ず、視線をあちこちに泳がせる。
肩で呼吸する愁麗に後ろから抱きしめられていると分かったリンカは、目を見開き、振り払う為体を捩ろうとした。

「リンカ、っ」

愁麗の声に、リンカの動きが止まる。
縋り付く愁麗を振り払うことは容易なのに、それが出来なかった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」

顔を見ることの出来ない愁麗の体が小刻みに震えている。声は濡れている。
彼女は今、泣いているのだ。

「…なん…なのよ、意味分かんない。ていうか離して。あたしに触らないで」

「リンカ…貴方達の心を傷付けた神を、許してくれとは言いません…心を曲げるなとも言いません」

「当たり前でしょ…!アンタら神のせいで、あたし達がどれだけ苦しんだと思ってんの?!」

謝られたところで、許せるはずがない。
リンカは身を捩り、愁麗の腕から抜け出す。そして睨むように愁麗を見つめる。

「言いたいことも言えない黄泉を殺して、そんなに楽しいわけ?!あたしらそんなに追いやりたいの?!神なんて偉そうな名前付いてるくせに、やってることは妖より質悪いわ!あたし達黄泉は、アンタ達に…っ…」

リンカの言葉が詰まる。
愁麗を睨んだままの瞳から、涙が伝った。

「…アンタ達に…助けてもらいたかっただけなのに…!」

絞り出された苦しげな声は、リンカの心の叫びだ。
愁麗の目からまた涙が零れる。

「アンタのせいよ!アンタさえ現れなければ、あたしはこんな思いをしなくて済んだのに!神のくせに、アンタが馬鹿みたいに優しいから…!っなんであたしがこんなに悩まなきゃいけないの!」

自分のしていることが正しいのか分からない。
間違っているような気がして、怖い。
愁麗に会ったばかりに、リンカは自分で自分の感情が分からなくなってしまった。



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