「リンカは人一倍、黄泉や仲間のことを愛している。だからこそ…神が許せない」

昔から、黄泉が神に狩られていくのを見てきた。口を持たぬ為に反論出来ず、影である故に仲間に触れ、救うことも出来ない。
黄泉がどんな思いを抱えているか理解しようともしないまま、神は黄泉を殺し続けてきた。
黄泉達の心に憎しみは幾重にも重なり、神への復讐にも似た感情を抱かせる。
リンカはその典型だった。

愛しい仲間を次々に殺され、自分自身も消されかけたこともあるだろう。
元は中つ国で未練を遺して死に、神に救いを求めて高天原へ来たはずだった。
だがその気持ちは徐々に薄れていった。
リンカだけでなく、黄泉の全てがそうだった。
神は救ってなどくれないのだという現実を叩き付けられ、絶望と怒りを知る。

黄泉を見下す神々へ報復することが、恐らくリンカが器を求めた理由。
そして器を得た今、その願いは実行に移されている。

「だが、お前に会った」

影狼丸の言葉に、愁麗は僅かに首を傾けた。

「憎い神が身近に現れ、より神への憎しみを感じたことだろう」

愁麗に初めて会った頃から、リンカは彼女に辛く当たっている。
神が嫌いなのだから当然だ。
愁麗自身も、リンカからの嫌悪感は伝わっていた。
いろはとは、しばらく時間が経てば少しずつ分かり合えるようになった。
だがリンカは、分厚い壁で愁麗を拒絶している。

「怖いんだ、信じてきた思いが揺れる事が」

影狼丸は赤い瞳で愁麗を見つめる。

「お前は今まで俺達が知っていた神とは違った。神でありながら、黄泉を慈しむ心を持っていた」

神の中に、黄泉を想う者がいた。
その事実がリンカは受け入れられないのだと、影狼丸は話す。

「リンカは、神は全て殺してしまえばいいと思っていたんだ。けれどお前のように、手を差し延べてくれる神もいるかもしれない…自分の信念が正しいのか分からなくなっているんだ」

心を許すのが怖い。
信じたところで、また裏切るかもしれない。
リンカの心は、同じ黄泉である影狼丸にはよく分かった。

「お前がほかの神とは違うことは、あいつもちゃんと分かっている」

影狼丸のその言葉を聞いた瞬間、愁麗は勢い良く立ち上がり、広間を飛び出していく。
影狼丸しかいなくなった部屋の隅から影が伸び、いろはと絢鷹が姿を現した。

「立ち聞きか」

含み笑いで言うと、いろはは笑った。

「絢に俺様達を知らせるいい機会だと思ったからなァ。隠れさせてもらった」

影狼丸が絢鷹に視線を移すと、床を見つめていた絢鷹が影狼丸に視点を合わせる。

「お前らの気持ちは、よう分かった……分かったよ」

絢鷹の目には、何かを覚悟したような強い光が宿っていた。




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