リンカは影の世界から陰に赴き、黄泉を討伐しに来ていた神々を殺していく。
けれど、普段神を消した時に感じる爽快感が得られなかった。
巨大ブーメランを振るい、いくら神々の首を跳ねても、不快感が残る。
先程の愁麗の瞳が、忘れられずにリンカの心に残っているのだ。

「なんなのよ…まったく」

そんな気の緩みが災いしたのか、最終的にはリンカも怪我を負う事になってしまった。
肩を少し斬られた程度ではあったが、血は腕を伝い滴り落ちていく。
自分の落ち度と、自分を揺るがす愁麗に腹が立ち、舌打ちする。
今日はもういい、調子が悪い。
そう思ったリンカは、足元の影を広げて早々に本拠地へ戻っていった。

先程愁麗と擦れ違った廊下を抜け、広間に入る。
机と椅子が並べられただけの簡素な部屋には、影狼丸、そして愁麗がいた。
影狼丸だけなら良かったものを、その隣の白銀が目障りでまた眉間にしわが寄る。

眩しい。
薄暗い中、愁麗の銀糸の髪はとても明るく見えた。儚く美しい輝きが、リンカには鬱陶しくて堪らない。

「リンカ…!怪我をしています!」

直ぐに手当てをさせて下さいと、愁麗は突っ立ったままのリンカに駆け寄り、椅子に座らせようとその背に触れる。

「っ触らないで!!」

背に触れた愁麗の手を、力一杯振り払う。乾いた音が広間に反響し、愁麗は弾かれた手を押さえた。

「何なのよアンタ!神のくせに、黄泉に情けを掛けようっての?!馬鹿にするのもいい加減にして!」

何故こんなにも苛立ち、もやもやするのかリンカにも分からない。けれどその謎の感情の原因は間違いなく愁麗だ。
行き場のない不快感を、また愁麗に投げつける。

「リンカ」

少しの沈黙の後に声を発したのは影狼丸だった。リンカは愁麗から影狼丸へ視線を移し、唇を噛む。
諭すような眼差しに、リンカはぎゅっと拳を握って部屋を出て行った。自分の部屋に戻ったのであろう、広間の扉は音を立てて閉められる。

「…リンカ…」

扉を見つめたままの愁麗に、影狼丸はひとつ息を吐いた。

「悪く思わないでくれ。リンカは、怖いだけなんだ」

影狼丸の言葉に、愁麗は振り返り、再び彼の隣に座る。
影狼丸は、肉体を得るずっと前からリンカやいろはを知っている。特に仲良いこの二人のことは、誰よりも理解していた。




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