「アカネ、神々が刀を引く為には、まず神々の安全が確保されなければなりません」

攻められている以上、何もしない訳にはいかない。自ずと戦になってしまう。

「神を止めるには、まず黄泉の衝動を鎮めなければ」

黄泉は、器欲しさに必死になっている。物言える口、触れることの出来る肌…まずはそれを得なければ、救われないと思っている。
半ば本能のように、器を求めて神を襲うのだ。
黄泉が神に危害を加えなくなれば、神も敢えて斬り込む必要がなくなる。

「アカネの言葉は最もです。ですが神が刃を向ける理由も、分かって下さい。私達もまた、生きていたいのです」

生きていたい、その言葉はアカネの胸に突き刺さった。
黄泉だけでなく、神もまた必死なのだ、不安なのだ。
やはり、どちらが悪いとも言い難かった。
結局言い換えれば、お互い様、だ。

「母さん、あたし達はね…どっちにも幸せになってもらいたいんだ」

天照は俯き気味のアカネに優しく微笑む。

「私もです」

簡単には出来ない、けれど黄泉との和解を望むことに反対はされなかった。
アカネはひとまず安心し、顔を上げて微笑み返した。
天照はそこで、はっと思い付いたように眉を側め、口元に手を当てる。

「愁麗なら、あるいは…」

「愁麗って、理の姫なんだよね」

太陽姫であるアカネと、戦姫である千代菊に次ぐ三人目の姫。

「愁麗は理を守る力を持っています。黄泉と神を隔てる理もまた、今は彼女が守っているのです」

愁麗が搭にいた頃は、確かに平和だった。神と黄泉を完全に隔てていたからだ。諍いもほとんど起こってはいなかったが、共存も出来てはいない…そんな理だった。

「愁麗の守っている理は、陰に太陽の温もりを与えぬのです」

塀や門の外に、天照の慈悲と温もりは届かない理なのだという。
だから黄泉は余計に、陽に侵入しようとする。そこにしか、温もりも光もないからだ。

「ここにいたままでも、私が太陽を向けてやれれば良いのですが…」

今の理のままでは不可能らしい。天照の力は陽の内側にしか巡らない。

「そっか、太陽が届かないから、陰は荒野なんだ…」

植物もなにも、太陽なしには生きられない。
だが裏を返せば、太陽さえ与えれば、あのような不毛の地ではなくなるはずだ。
そうすれば、黄泉にも天照の慈愛が届く。温もりに触れ、悲しい魂が救われる。陰にも緑が茂るかもしれない。

「愁麗…やっぱり探さなきゃ」

見えてきそうな解決の糸口。
それは、愁麗が握っているに違いなかった。





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